Hitachi

日立財団

特別インタビュー

働き方やパートナーシップの
あり方の向こうに、
少子化の対策が
きっと見つかります。

  • 日立財団理事長

    田中 幸二

  • 少子化ジャーナリスト

    白河 桃子

 高齢化と同時に、いま急速に日本で進行している少子化。赤ちゃんの出生数は2017年に過去最低の946,060人を記録しています(厚生労働省 人口動態調査より)。このままでは日本の人口減少に拍車がかかり、ひいては企業の経済活動や年金など社会保障にも大きな影響をおよぼします。はたしてこの流れを抑えることはできるのか、できるとしたら、どんなところに糸口がありそうか。「婚活」「パパはゾンビ」などインパクトのあるフレーズで、近年では少子化や働き方改革のジャーナリスト・作家、政府の有識者委員として活躍している白河桃子さんに、当財団理事長 田中幸二がお聞きしました。

少子化問題のいま

「パパはゾンビ」は、ワーキングマザーの本音

インタビュー

田中:「パパはゾンビ」と先生は発信されていましたよね。かなりインパクトがあって、話題になりました。

白河:「パパは死んだものと思っています」と、あるワーキングマザーのかたがおっしゃっていたのです。びっくりしてその意味をお聞きしたら、「平日でもパパがいると思うと、家事や育児を少しでも手伝ってくれるのではと、ついつい期待をしてしまう。でもパパが帰ってくるのはいつも深夜であてにならない。どうしても自分一人で家のことをしないといけないので、いっそいないもの、死んだものと思ったほうが気が楽」ということをおっしゃったのです。そうしたら、まわりにいらしたワーキングマザーも「そうそう!」って深く頷いていらっしゃいました。
当時、安倍首相の呼びかけで一億総活躍国民会議が開かれていて、私もメンバーとして出席していたのですが、そこで「パパはゾンビ問題」と名づけて発表しました。ゾンビというと「ウォーキングデッド」というアメリカの人気ドラマがあって、それに引っかけて「ワーキングデッド」にしたかったのですが、官僚の人たちに理解してもらえなくてこの言い方にしました(笑)。流行語にもなった「ワンオペ(ワンオペレーション)育児」や「平日母子家庭」などと同じ意味です。こういう名言がワーキングマザーの皆さんから次々と出ていましたね。

田中:なるほど、かなりブラックなお話しですが、それだけワーキングマザーの皆さんは、大変な思いで日々頑張っているのですね。

白河:いまは共働きが当たり前になってるのに、家族の男女の役割分担の意識とか世間からの期待値とかが相変わらず変わっていない。昭和の意識のままですよね。「子育てはお母さんの役目だね」とか「自分は出来る限りのことはするけど、育児はお母さんがメインだよね」という夫も多い。そうなるとお母さんは小さなお子さんの命を預かるという仕事を、たった一人でやっていかなければならない。非常に責任がかかる状況になっていて、つねにものすごいプレッシャーを感じているのです。夫の方も別に悪気があってやっているわけではなくて、真面目に忙しく仕事をしているだけなんですね。こうした状況を問題提起したくて、「パパはゾンビ」とちょっとショッキングな表現にして、一億総活躍国民会議に持っていったわけです。でも、安倍首相はお子さんがいらっしゃらないし、会議に出席していた大臣たちはお年も上ですし全然ピンと来てない様子でした。逆に、会議室の後ろの方で傍聴していた若い官僚たちは、皆さん共働きが多いせいか頷いているかたが多かったです。会議後、「“パパはゾンビ”がグサッときました」とこっそり言われたりもしました。

田中:でも最近はけっこう変わっていませんか。私の自宅近くに新しい保育所ができて、今日も通勤のときに見たら、子どもを預けに来るお父さんが多いようにも見えました。

インタビュー

白河:そういう光景も本当につい最近の話で、実は2008年ぐらいからなのです。それまでは育児と家事を両立するための制度は企業にありましたが、実際は使い勝手が悪かった。2010年ぐらいから特に時短勤務(3才未満の子を持つ男女への1日原則6時間の短時間勤務制度の創設)が義務化されたことで、育休をとって働き続けることが前提な世代となりました。活躍とまではいかないのですが、とりあえず子どもを生んでも女性は会社に居残れるようになりました。2011年ぐらいからの調査では、第一子出産を経験した女性正社員のうち、7割ものかたがその後もしっかりと働いておられます。ワーキングマザーは、もうマイノリティではないのです。そういう背景があるので、都会の保育園などではお父さんも子どもを送りにいく光景がだいぶ目立つようになったわけです。

田中:なるほど、そういう事情があったわけなのですね。

白河:また、働き方改革でリモートワークを取り入れる企業も増えていますよね。リモートワークが導入されると、夫の家事時間が32分ぐらい増えるという調査結果もあります。夫の会社にはリモートワークがあるけど、奥さんの会社にはない。すると夫が自宅で仕事をして、そうなると保育園のお迎えも行くようになりますよね。帰ったら、子どもはお腹が空いていますからそのままご飯を食べさせて、お風呂に入れて、寝かしつけというゴールデンタイムを全部、夫が担当することになります。そうなってくると夫側も家事や育児にかける時間が格段に増えるはずです。

田中:テレワークを導入したり、あるいはテスト導入したりする企業が増えてますよね。確かに、そういった環境面での整備は進んできていますよね。

白河:それもここ2年ぐらいの話です。この前、ある企業で話を聞いたら、テレワークの制度を入れたのに7年経って数えたら4人しか使われていなかった。それで慌てて運用を変えて、やっと運用率が上がったそうです。それまでの運用方法を聞いたら、テレワークしたいというときは突発的な場合が多いのに、2~3日前に申請をしないといけない。だから子どもが熱を出した、なんてときは使えない。それから、朝9時にパカッとパソコンを開けて仕事を始めて、12時になったらパソコンを止めるといったように、会社にいるときと全く同じような働き方を家でもやらないといけなかったり。それではなかなか使えないですよね。

田中:なるほど。そういう経緯があって、最近ようやく働き方がフレキシブルになってきているわけですね。先ほどのお話ですと、2010年から徐々に変わってきたそうですね。

白河:「働き方改革は暮らし方改革」と私は言っているのですが、逆に働き方が変わらないと、「育メン」とかがどんなに取り上げられるようになっても、あるいは「自分も育児や家事をやらなきゃ」と思う夫が増えても、できないのです。こういう変化は個人のためにもなりますし、企業のためにも生産性が上がるなどしてプラスになります。そういうふうになってきたことは、大変ありがたいことだと思っています。

田中:最近は企業トップ自ら決断して、組織的に取り組んでいますね。特に少子化問題の解決は、私は日本の課題の中では優先的な事項だと思っています。

インタビュー

白河:本当はそうなんですけどね。自民党の石破さんも「少子化は見えない有事」と、そのぐらい強い言葉をよく使われていらっしゃいますよね。経済にもたらす影響もすごく大きい。確かに変化していますが、残念ながらちょっと遅いですね。戦後のベビーブームで団塊世代が発生しましたが、その後第二のベビーブームを起こすはずの団塊ジュニアがお子さんを持つ時期がほとんど終わってしまいました。だから、何かしらの手を打たないと、子どもが増えるチャンスがないのです。そういう国家としての視点も大切ですが、私は個人の幸福に焦点を当てたい。お子さんが欲しいとか、育てたいとか、仕事をしながらも両立させたいとか、皆さんさまざまな希望があるわけですよね。その個人の希望が叶うということが最も重要なことだと思っていますので、そのためにいまどんなハードルがあるか。それは例えば働き方であったり、お金の問題であったり、時間の問題もありますし、そのハードルを取り除きたいというのが私がいちばん思っていることです。今から対策をして国の人口が爆発的に増加することはありませんが、かといって止めてしまうと、個人の希望が叶えられない社会になってしまう。希望のない社会はよくないですよね。ですから、少子化をくい止める対策をきちんと、粛々とやっていくことがすごく重要だと思っています。

シェア
ツイート