パイオニアトーク Vol.1

留学

男女問わずさまざまな人種、宗教の方が集まり、
多様な考え方や視点がある。海外留学は刺激になりましたね。

大島まりさん

荒木: その後、先生は海外留学を2回されていらっしゃいますね。その留学での研究生活に関して、とても学ぶことが多かったとお話されていますが、どんな経験をされましたか。

大島: 小さい頃に海外に住んでいましたが、教育は小学校を含めてずっと日本だったので、一度はアメリカで勉強してみたいという思いが非常に強くありました。最初は学生としてMIT(マサチューセッツ工科大学)、2回目は研究者としてスタンフォード大学に留学しました。それぞれ違う経験ができたと思います。特に、大学院生だったMITの頃は、一人で海外生活をするのが初めての経験だったので、自分自身を知るということと、また日本を外から見ることができて、日本人としての自分のアイデンティティを見なおす非常に良いきっかけとなりました。若い頃にありがちな、自分や日本に対して否定的になるときもありましたが、アメリカにいて日本を外から見ると、日本の良さもあるし、アメリカの良さもある。その一方で、国が抱えている問題点もありますし、それは日本も同様だと気付くようになりました。MITはリベラルな学校でさまざまな人種、宗教、多くの女性の方も集まっていて、多様な考え方や視点がありました。そのような環境は日本ではあまり見られないじゃないですか。いろいろな人と交わりながら、多様な異なる刺激をどう受け入れるのか、それらをどう自分に活かしていくかを考えるのは、非常に勉強になりましたね。

荒木: 私も実はMITに留学していたことがあって、さらにスタンフォードも若干ですが留学経験があります。

大島: そうですか! いろいろと共通点があって嬉しいですね。

荒木: アメリカも西海岸と東海岸で違いがあると思うのですが、日本の研究環境と比べてアメリカって、例えばどういう強みがありましたか。

大島: アメリカは競争社会で厳しいです。でも一方で、比較的寛容なところもありますね。というのは私、MITのときに網膜剥離となり入院しました。しばらく学業も何もできない時期があったのですが、そのとき、研究室の方々も含めて多くの方々に助けて頂いたのです。そのようなこともあって、厳しいところもありますが、困ったときに皆で助け合う、という精神があるかと思います。

荒木: 女性の研究者というのは、その頃はどんな感じでしたか。

大島: その当時、MITでも女子学生は30%くらいいましたね。私は原子力工学科でしたが、そこにも女子学生がいましたし、皆さんすごくイキイキと研究、勉強されていて、非常に刺激になりましたね。

荒木: 女性の研究者というのは、結婚をして子供ができてといったライフサイクルの中で研究を継続していくのは難しいという話もありますけれども、アメリカの女性研究者をご覧になってどうでしたか。

大島: スタンフォードに留学していたとき、MITのときの友だちも西海岸に来ていて、会ったりしていました。女性の友だちはバークレーの大学院生、旦那さんがスタンフォードで同じく大学院生でした。二人は、双方の大学の中間地点にある町に住み、対等なパートナーとして生活を築いていました。二人の様子を見て、“あ、そういう関係ってあるのだ”と、本当に目からうろこが落ちましたね。カップルでチームみたいに研究、学業そして生活を両立する家庭があってもいいのだと、女性が家庭の全てやらなくてもいいのだと。

荒木: 二人で一緒にパートナーとしてやっていく、という感じですか。

大島: どちらかが何かを犠牲にするのではなく、お互いに高めあって自分たちの目標を達成している、非常にポジティブな感じがしましたね。当時、“結婚は人生の墓場”だとか聞かされてネガティブな印象があったのですが、必ずしもそうではない、と非常に明るい気持ちになりました。

人生の契機

CTスキャンのデータから血流をシミュレーションする。
なんて刺激的なんだろう、と思いましたね。

荒木: 留学2回目でスタンフォードに行かれたとき、先生は今のご専門のバイオ・マイクロ流体工学に出会ったとお聞きしています。原子炉工学でやられていた流体工学と基本的にはつながっているそうですが、この分野を専門として選択されたいきさつを教えて頂けますか。

大島: 最初、数値流体力学という、コンピュータの流体のシミュレーションを学部からずっと行ってきました。そしてスタンフォードに留学した当初は、数値流体力学でその当時行っていた自分の研究を専門的に極めようと思っていました。スタンフォード大学ではいろいろなセミナーがあり、たまたまCTスキャンのデータからデジタル的に血管を抽出して血流のシミュレーションをする発表を聴講しました。そして、大変びっくりしました。確かに血液の流れも流体だし、このようなアプローチがあるのだと。物理学や機械工学では、基本的で普遍的な理論がさまざまな分野に展開できるという利点があるので、もし機会があったら新しい応用研究もやってみたいとずっと思っていました。
そうして留学から帰ってきた後、たまたまある脳外科の先生と出会いました。その先生は動脈瘤の研究をされていて、「動脈瘤ができたり破裂したりするのは血液の流れと非常に密接な関係があるといわれているが、人体なので実験は難しい」「けれども今はコンピュータ・シミュレーションという技術があるから、それができる人はいないか」ということで探されていました。人づてに私の研究を聞いて興味を持たれ、お会いすることになったのです。実際に話しを伺ったら、私が興味を持ってやりたいと思っている分野と非常に近いと感じて、研究を始めました。最初は戸惑いもありましたが、比較的自由な環境で研究でき、サポートも頂くことができたので、本腰を入れてこの分野での研究を新しく展開してみようと思いました。

荒木: 先生のお話の中では“ご縁”が大きく影響しているようですね。そういうチャンスを上手くとらえて、研究者としても、あるいはプライベートでも、新しい展開をされておられるようですね。