パイオニアトーク Vol.2

理系を目指す女子へ

エンジニアリングに男性・女性の差は関係ありません。身につけた技術をどう活かすかです。

玉城 絵美さん

荒木: 日立製作所を含む技術を大切にしている企業では、働いている人のほとんどが技術系ですが、女性で技術分野のバックグランドを持った人はどうしても少ないのです。技術系の女性が活躍するために、企業や財団ができることについてアドバイスや提言があれば大変ありがたいです。

玉城: 一度企業のまわりを見回してみてはどうでしょう。きちんと多様性のバランスが取れているかどうか、逆にちょっと女性が多すぎるのではないかとか。

荒木: なるほど。

玉城: 若い人が多すぎるとか、年配の人が多すぎるとか。女性が少ない場合は女性を雇用する、マネージャーに配置するというふうにすると、女性だけではなく皆が働きやすくなるのではないかと思います。いろいろな視点があるということが大切ですね。

荒木: そうですね。女性がとても多い業種もあると思いますが、やはりエンジニアリングのバックグランドが必要な企業ですと、どうしても男性が多くなってしまいがちです。男女だけではなく国籍とか多様性にもいろいろありますが、やはりエンジニアリング分野は女性があまりにも少ないと思います。それは、小学生や小さい頃に技術に興味のあった女性がその後、その分野に進んだ時の自分の未来や、エンジニアリング分野で女性が活躍できる道についてのイメージをあまりもてないからではないでしょうか。それを解決するためにもいろいろな理系のキャリアパスがあるのだということをもっと知ってもらい、理系分野を選択する女性が増えていってほしいと思っているのです。

玉城: 確かに、現時点ではエンジニアリング分野での女性は全体から見るとすごく少ないので、そこでのキャリアパスは想像しづらいのかもしれませんね。ただ、逆転の発想で見ると、型にはまらなくていいとも言えます。今からエンジニアリング分野に進んでいく女性は、「自分がスタンダード」という意識で良いのではないでしょうか。自分を型にはめる必要がないのですから。

荒木: そうですね。玉城先生のように若いときから実績を積まれたエンジニアの方がいらっしゃると、理工系女子のイメージもずいぶん変わるのではと私たちは思っています。
2016年に日立財団が開催した「未来をつくるリケジョたち!」というシンポジウムでは、玉城先生にパネリストとしてご登壇いただきましたが、参加者から、「工学部とかエンジニアリングの学科や学部に行っている女子学生は、お洒落に気を使わないようなイメージがありますが、実際はどうなのですか?」なんていう質問がありましたね。
やっぱりそういうイメージをお持ちの親御さんや女子学生のかたがたがまだ多くいらっしゃるのでしょうか。

玉城: 女子は生きづらいと思われていますよね。エンジニアリング自体、男女関係なく敷居が高いイメージがありますよね。参入障壁というか、難しいのではないかという。数学や理系全体もそうですよね。でも、この分野はひとつひとつの積み重ねなので、そんなに身構えなくても、男性でも女性でも大丈夫ですよということは頭の隅に入れておいてほしいですね。それから今は時代も変わり、工学部に限らず、どこの学部に入ったかというのはバックグランドの一つであって、むしろそこで学んだ技術をそれからどう活かすか、その技能をどう今後活用していくかに重点が置かれるようになっています。ですから、大学や大学院を卒業した後に、その技術をどう活かしていくのかという所に気づくと、工学部に入ったから生きづらいとか、そういうことはないのだということに気付くと思います。

荒木: そうですね。先生の場合は最初にやりたいことがあって、それを実現するために必要な技術や学科を選び、技術を学んでこられた。最初に抱いた思いがずっとぶれずにきているのですよね。同じように社会にこんなことを実現したいとか、こういうインパクトを社会にもたらしたいなどと思っている人は、エンジニアリングを含めて参入障壁を感じずに、社会のためにあるいは自分のためにいろいろ挑戦してもらえるような世の中になるといいな、と今日の先生のお話をお聞きして思いました。とても夢を感じるお話しをありがとうございました。

▲ムービー内で荒木が体験している「UnlimitedHand」、「FirstVR」の情報はH2L株式会社のホームページを参照ください。

玉城 絵美(たまき えみ)

<プロフィール>

コンピューターからヒトに触感や身体感覚を伝達するヒューマンコンピューターインタラクション:HCI研究とその普及を目指している。2009年東京大学エッジキャピタル(UTEC)にてシーズ探索インターン,2010年Disney Research Pittsburghにて研究に従事する。2011年コンピューターがヒトに手の動作を制御する装置PossessedHandを発表し,多数の学会で注目される。同年,東京大学大学院にて博士号取得し、東京大学総長賞受賞と同時に総代をつとめる。2012年にH2L,Inc.を創業。2013年早稲田大学に移籍。2015年、アメリカのクラウドファンディングKickStarterにて世界初触感型ゲームコントローラUnlimitedHandを発表し22時間で調達資金の目標額を達成。同年、日経ウーマン ウーマンオブザイヤー準大賞受賞。2016年WIRED Audi Innovation Award 2016、日経ビジネス 次代をつくる100人、科学技術・学術政策研究所ナイスステップな研究者(科学技術への顕著)賞 受賞。同年から内閣府 総合科学技術・イノベーション会議、科学技術イノベーション政策推進専門調査会にて第5期科学技術基本計画の総合戦略に関する委員を務める。2017年 外務省 WINDS(女性の理系キャリア促進のためのイニシアティブ)大使 に任命、H2L, Inc.では一般向けコントローラFirstVRを発表。

荒木 由季子

聞き手

荒木 由季子

株式会社 日立製作所 理事
法務・コミュニケーション統括本部
CSR・環境戦略本部長

<プロフィール>

1983年3月東京大学工学部卒業、1983年4月通商産業省入省。1988年8月米国マサチューセッツ工科大学院(政治学科政治学科)修了、1998年6月通商産業省機械情報産業局医療・福祉機器産業室長、その後、経済産業省商務流通グループ博覧会推進室長、国土交通省総合政策局観光経済課長、山形県副知事、2012麗水国際博覧会日本政府代表等を歴任。2012年12月株式会社 日立製作所入社、現在に至る。