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パイオニアトーク Vol.3

五十嵐 悠紀さん

五十嵐 悠紀さん

明治大学 総合数理学部
先端メディアサイエンス学科 専任准教授/博士(工学)

プロフィール

2010年東京大学工学系研究科博士課程修了、博士(工学)。同年より日本学術振興会特別研究員PD、RPDとして筑波大学に所属、2015年より現職。コンピュータグラフィックスおよびユーザーインタフェースに関する研究に従事。Yahoo!ニュース個人オーサー、日本ビジネスプレスオーサーとして活動。JST さきがけ研究員、IPA未踏プロジェクトマネージャなど兼任。大学教員の夫と、小学校4年生、1年生、3歳の2男1女を育てている。

コンピュータグラフィックスを使うと、描いた絵が簡単にぬいぐるみにできるんです。〜 生活は、サイエンスにあふれています〜

ぬいぐるみの制作は、実はとても難しいことって知っていましたか。平面的な型紙を組み合わせて立体的なぬいぐるみを作るため、思うように丸みをもった形に仕上げるには専門的な経験やカン、技術が必要となります。そんな難しい作業を最新のコンピュータグラフィックス(CG)の技術を使って簡単にできるようにしたのが、明治大学 専任准教授の五十嵐悠紀さんです。手芸とコンピュータ、かけ離れていると思えるテーマがこうして繋がるなんて、とても意外な感じです。五十嵐さんはどんな発想でこの研究に取り組んだのでしょうか。同じリケジョの日立製作所理事、荒木由美子がお話をお聞きしました。
聞き手:荒木 由季子(株式会社日立製作所 理事)

プロローグ セッション

CGでバルーンが膨らむ!?

リアルなぬいぐるみをCGで

モデリングとシミュレーション、この2つを並行処理しています。

荒木: 先ほど、すごく大きなバルーンを見せていただきましたけれども、本当に可愛らしいバルーンですね。五十嵐先生はぬいぐるみなどを簡単に作れるような技術を研究されているそうですね。

五十嵐: はい、ここにあるぬいぐるみやビーズなど、手芸作品をオリジナルで自分だけのものを作ろうとしたとき、型紙を起こしますよね。作品は三次元ですが、型紙にするには二次元で表現しなければなりません。とても技術が必要で、通常はパタンナーさんと呼ばれる専門家の仕事なんです。しかも、その専門家でさえも新しいデザインを作るときは大変で、それまでの経験や勘、技術を使いながら試作品を作り、満足いかなかったらまた型紙を起こすところから、といった試行錯誤を重ねています。そういった苦労にCGの専門家として何かできないか、それが発端でした。CGってゲームや映画、テレビの映像制作や、車などのデザインをするCAD(Computer Aided Design)システムなど、専門家のものと思われがちですが、非専門家向けにもいろいろなインターフェースが出てきています。そういうCGの技術を使って、私の場合、ぬいぐるみを作りたい、手芸好きな人を支援したいと思ったのです。私自身、ぬいぐるみやビーズ、毛糸の編みぐるみやカバーデザインなど、いろいろな手芸をやってきたということもあります。

荒木: そうなんですね。

五十嵐: ムービーでご説明しますね。私が作ったシステムはJavaでデザインするプロトタイプです。マウスで線を描くと、それが次々と型紙になります。そのままの形でぬいぐるみにしてしまうとできあがりが一回り小さくなってしまうので、ちょっと膨らませた形で型紙ができます。そしてその隣には、三次元CGでできあがりをシミュレーションし、内側から綿を詰めた形に見える予想画像も表示されます。その予想画像を部分的にマウスでカットすると、型紙もカットされます。通常の三次元モデリングソフトウェアを使うと、中に綿を入れたような形を展開したときには、面の集合体でなければならず、型紙のように二次元に表現するのは難しいことでした。それをモデリングという形のデザインと、シミュレーションという実世界でどうなっているかということを並行して処理していることが、このソフトウェアで技術的には新しいことで、私はこのテーマで論文を書いています。

荒木: そうなんですね。これだけ見ると、いとも簡単にでき上がっているように見えるのですけれども。その後ろではすごい技術があるということですね。

五十嵐: はい、すごい量の計算をしています。中身が入って膨らんだ後の形状が、マウスで描いた線に合うように型紙のほうを上手く調整したり。カットしたり突起を付けたり、つまんで引っ張ったり、マウスでいろいろ操作すると新しい型紙がパソコン上に生成されます。腕や足みたいな胴体と繋がったパーツも作れます。

荒木: 長さを変えたりなども簡単にできるのですか。

五十嵐: できます。その他にも、デザインしていくと縫い目がどんどん増えてしまうので、縫い目を消しゴム機能で消してあげることもできます。そうすると型紙が合体して、その結果の三次元形状も変わる、といった機能もあります。

荒木: なるほど。このうり坊のぬいぐるみは、このシミュレーターで作ったものなんですね。

五十嵐: そうです。先ほどのクマさんのバルーンも、このシミュレーターで作ったものです。通常、大学で研究というと論文を書いたり、特許を出したりすれば終わってしまうのですが、この研究に関しては、ユーザースタディを兼ねて子どもたちを対象としたワークショップを開催しています。タブレットPCで子どもたちにぬいぐるみをデザインしてもらって、できた型紙をお昼休憩の間にスタッフが印刷して、午後、みんなで一緒に縫うということをやりました。あらかじめ作られたキットではない、本当にオリジナルな自分だけのぬいぐるみというのをみんなに作ってもらって、新しく生み出すことの楽しさや喜び、三次元と二次元の繋がりなどを楽しんでもらいました。

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