パイオニアトーク Vol.3

リアルなぬいぐるみをCGで

モデリングとシミュレーション、この2つを並行処理しています。

五十嵐: ここにあるクマさんのビーズも実はコンピュータを使ってデザインしています。こういう立体的な三次元のビーズは、実は1本のワイヤーで作られていて、ビーズを通したワイヤーを引っ張っていくと、目と鼻がキューッと出て顔の部分ができるという作りになっているんですね。これをビーズ作家さんは、試行錯誤しながら作っています。私たちが立体のビーズ作品を作ろうと思ったら、作家さんたちがまとめたレシピ本を買ってきてその図面を見ながら作らなければならないのですが、それをコンピュータで支援しようと思いました。この画面がビーズのプロトタイプですが、左側に正多面体を出しています。この辺の上にビーズが乗っています。すべての辺と対応してビーズが乗っていて、パソコンを操作していくと、雪だるまのビーズができていきます。

荒木: すごいですね!

五十嵐: すべてのビーズを、そろばん型のビーズで4mmサイズを使いますよと決めると、辺とビーズを対応させたので、すべての辺の長さが等しい多角形、多面体をデザインするという問題になるんです。ほら、ちょっと数学っぽく、理系っぽくなってきました(笑)。本体の面の部分、メッシュというのですけど、それを立ち上がらせて例えばクマさんの耳を作ろうとしたとき、その面のすべての辺の長さは等しくコンピュータで計算できるんです。だからユーザーは、伸ばしたいところやいらないところがある場合はコンピュータ上で操作してあげることで、自動的にすべての辺の長さが等しくなるようなシミュレーションをコンピュータが行います。この辺のすべての長さが等しいということをシミュレートすることで、こういうモデルができるのです。

荒木: ぬいぐるみより、けっこう大変ですね。

五十嵐: そうなんです。ぬいぐるみは、三次元を二次元の型紙にしているのですけれど、ビーズって、むしろ一次元ですよね。

荒木: しかも、一つ一つ点を繋いで。

五十嵐: つぶつぶを繋ぐという感じで、それが大変なのです。それをコンピュータでパパッと計算させると、まず最初に1本のワイヤーにビーズを通してくださいという表示が出ます。次に、こっちからビーズを通してくださいと。

荒木: やり方をどんどん示してくれるようになっていますね。

五十嵐: そうなんです。例えばCGなので透明にさせたりだとか、向きを変えたりだとか、今どこを作っているのか表示させることもできます。CGならではの機能は何でも使えるので、次、次へと、三次元CGのまま制作方法を提示することをやりました。1本のワイヤーを使って表面を作っていくので、実はこれって一筆書き理論なんです。オイラーグラフという定理があって、グラフ構造を作ってすべての頂点から出る辺の数が偶数だったらオイラーグラフ、つまり一筆書きができるかできないかという理論があるのですが、それを使っています。手芸って、試行錯誤で今までできていた世界だと思うのですけれど、実は数学、工学など、そういうことに繋がっているんだという発見が面白くて。それでこの分野に今います。 ※オイラーグラフ:一筆書きして戻ってこられるグラフ(頂点と頂点を辺でつなぐ集合)のこと。