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公益財団法人 日立財団

ノーベル化学賞受賞(2001年) 野依良治氏インタビュー

若い研究者の挑戦に期待します。 ノーベル化学賞受賞(2001年)野依 良治氏

1968(昭和43)年に科学技術の振興をめざして始まった倉田奨励金は、これまでに1300人以上の研究者に奨励金を授与してきました。その受領者の一人に、2001年に「触媒的不斉水素化反応の開発」でノーベル化学賞を受賞した野依良治博士がいらっしゃいます。このたび倉田奨励金の創立50周年を記念し、第2回(1970年贈呈)と第10回(1978年贈呈)の受領者である野依博士に、次代を担う若い研究者へのメッセージを頂きました。

研究者の使命とは

若い研究者には、科学の進歩を担うことが託されています。

研究者の使命とは

「科学は進歩し続ける宿命にある」これは近代社会学の祖、マックス・ヴェーバーの言葉です。つまり科学とは、先人の築いた確固たる礎の上にさらに知識を積み上げていくもので、他のジャンルにはない特性です。芸術や文学の場合、変容や進化はするが、「進歩」するかどうかは自明ではないですね。そうした意味で、科学だけが確実に進歩していくわけです。あるいは、科学が関与するもののみが進歩するともいえるでしょう。
従って科学に携わる者、特に若い研究者には科学の進歩を担うことが託されているのです。他人の真似事や類似の研究をするのではなく、独自の視点で未知に挑戦する。自ら主体的に問題を発見し、それに対して正しい答えを見つけ出す。それこそが次代を担う若い科学者の使命、あるいは義務であると言っても過言ではありません。
自然は無限に広がっています。時代はどんどん変わっていきます。誰もまだ手の付けていない問題は無数にあります。その中から自分の研究をぜひ自由闊達に進めてほしいと思います。
私が倉田奨励金を頂いた時代と比較すると、経済的地位の向上に伴って日本の研究環境は格段に良くなり、世界に伍して研究できる環境が整ったといえます。しかしその一方で、やや研究者の自由が失われつつあるという気がしてなりません。これだけ研究人口が増え、限りある研究費の獲得の競争が厳しくなってくると、採択への評価も成果主義に傾きがちになります。
私としては、若い研究者の思い切った挑戦に対して、社会はもっと寛容であり、忍耐をもって見守り続けることが必要ではないかと感じています。

イノベーションの時代に求められる研究者像

「協調」と「協創」の時代にふさわしい「人財」の育成に期待します。

イノベーションとは経済的価値も含め、公共的、社会的な価値を生み出すことだと思います。
基礎科学者の立場から見ると、これまでのイノベーションには次のような過程があったと思います。まず、1人の科学者による独創的な発見をもとに10人から100人の研究者、技術者が協力して新しく優れた技術を発明する。そしてさらに1000人の知恵を集めて、新しい社会的な価値を創ってきたのではないかと考えます。つまり、社会変革を促すような価値をつくるには1人ではなく、可能な限り多くの人のアイディアを集めることが不可欠です。その集団が大きい程、斬新なアイディアが生まれる可能性が高まります。
今後イノベーション活動をさらに活性化するには、そのような社会的な環境をつくることが必要になります。こうしたことは従来の伝統的な大学制度では難しいと考えており、そのために教育制度を刷新しなければならないと思っています。これからのグローバル化した情報革命、ビックデータ、人工知能の時代には、異なる多様な知性を統合することが必要です。日本は民族的な均質性が高いので、ここに弱点がある。他にない個性を発揮することが難しいところに、日本の教育の大きな問題があります。そして多様な知性をイノベーションへとまとめ上げるには、特徴ある人びと、「異能」を統括する必要が生じます。
従来型の高度な知識や技術を持つ専門家だけでなく、特定分野の専門家でありながら、さらに国内外の社会を広く俯瞰できる人、多くの個性ある専門家を取りまとめられる、音楽でいえば、オーケストラの名指揮者のような人材が不可欠です。時代が求める人材となるには世界を巡り価値観の違いを肌で感じ触発されたり、そうした中で人脈を広げていったりといった体験がきっと必要になることでしょう。それから「こころざし」。世界は大きく動くが、いったい自分たちの社会をどうしたらいいのか。この意志が今の若い人には求められるのではないかと思っています。

倉田奨励金に期待すること

「Society5.0」実現に向け、今後も引き続き支援を頂きたい。

日立財団には引き続き我が国の若手の科学技術研究を支援していただき、人材育成を先導して頂きたいと思います。貴財団は社会構造の大きな変化に対応して倉田奨励金を2016年にリニューアルされましたが、この新しい「倉田奨励金」には大賛成です。
先導的、基礎的研究の助成はもちろん大切ですが、超スマート社会を見据え、「Society5.0」の実現に貢献することを目的に、さまざまな融合分野の基礎的・応用的な研究を助成対象とするというのは、大変時宜を得たご判断であると考えます。「エネルギー・環境」「都市・交通」「健康・医療」などの問題の軽減や解決は、単発の研究だけでは成し遂げられません。この新たな「倉田奨励金」は、個人研究に傾注しがちな研究者への意識改革にもつながるのではないかと思います。

「Society5.0」

日立財団の理工系人財育成支援事業について

多様な知性を統合できる、指揮者たる人材が求められるでしょう。

日立財団の理工系人財育成支援事業について

研究助成はもちろん大事ですが、「人づくり」はさらに意味があると考えています。その意味で、貴団体の理工系人財育成支援事業は非常に効果が大きいだろうと思います。「人材」の「材」を「財」としているところが素晴らしい。日本社会の未来は若い人、さらには幼い子供たちに託すより他ありません。私は好奇心にあふれる子どもたち、才能に満ちた青年たちには無限の可能性があり、ある意味、成人を凌駕するところがあるとも感じています。彼らにとって、社会の未来を背負わなければならないことは宿命ですから、我々大人世代の絶対的な責任として、彼らが自然や社会に対して直感的に面白いと思うことに、思い切り挑戦させなければならないと思います。今日の日本には、彼らに自由を与えてそれに向かわせる、挑ませる、こうした機会があまりに少なすぎます。
特に理工系をめざす子どもたちに向けて言いたいのは、科学技術の世界では、どんな天才であっても一人でできることには限界があるということです。これからは、個人が創造的であるということは基本でありながら、さらに周辺の人たちとつながりをもって、「協創」つまり共に価値を創っていくことが大事になってきます。しかし今は、学校や家庭の教育がこの意識を阻む。国民的行事である大学入学試験が典型ですが、若い力を育むのではなく消耗させる「競争」社会なのです。20世紀は戦争や経済に代表される「競争」の時代だった。しかし、21世紀は「協調」して「創造」する、Co-Creationつまり「協創」の時代になってきたのです。この潮流を若い人たちには伝えたいですね。

社会イノベーションを展開する日立のリソースを活かした、理工系人財育成支援事業はこちら >

科学技術は何を目指すべきか

SDGsなど次の時代を見すえたアプローチが求められています。

科学技術は何のためにあるのか。私は、個々の人々の豊かな人生、国の安全かつ平和な存立と繁栄、そして広く人類文明の持続のためにあるべきだと信じています。現在、我が国は多額の公的債務や著しい少子高齢化、エネルギー・資源等に関する深刻な問題を抱えています。さらに世界的な流れに目を移すと、2015年に国連総会で決定された「SDGs(Sustainable Development Goals):持続可能な開発のための2030アジェンダ」があります。このSDGsへの対応が、やはり社会的には最大の課題であると思っています。ここでは貧困や飢餓からの脱却をはじめ、健康、あるいは安全な水の確保など17の目標が設定されていますが、どれもごくごく当然のことばかりですね。我が国にも真摯な対応が求められていると思います。
これらの問題に立ち向かい、人類文明がこれからも存続していくには、科学技術はもちろん世界中のあらゆる分野の知:Wisdomを結集させる必要があります。研究者には、これら時代の状況も視野に入れつつ、こころざしを高くもち、果敢に挑戦してほしいと切に願っています。

SDGs(Sustainable Development Goals):持続可能な開発のための2030アジェンダ
野依 良治(のよりりょうじ)

野依 良治(のよりりょうじ)
名古屋大学特別教授、工学博士
2001年ノーベル化学賞受賞
国立研究開発法人科学技術振興機構 研究開発戦略センター長
倉田奨励金受領者[第2回 1970(昭和45)年受領/第10回 1978(昭和53)年受領]

1938年、兵庫県生まれ。第二次世界大戦終了後、復興途上の日本で初のノーベル賞に輝く湯川秀樹博士に憧れ、科学に目覚めた。やがて「ナイロンは石炭と水と空気からできる」と知り、化学の力に感動し、研究者の道を志す。京都大学大学院工学研究科修士課程修了。名古屋大学教授、理化学研究所理事長などを経て、現在は科学技術振興機構研究開発戦略センター長を務める。2000年、文化勲章受章、翌年「不斉水素化触媒反応」の業績でノーベル化学賞を受賞。

※倉田奨励金受領時の思い出についてもお話しをいただいています。
日立財団50周年スペシャルサイト「みちのり」のページ >もあわせてご覧ください。