編集後記
今回の特集テーマ「経済×多文化共生」は,まさに今の日本社会が直面している課題と希望を象徴するテーマでした。人口減少と労働力不足が進むなかで,多文化共生は「理念」ではなく「現実」として,私たちの生活や経済活動の中に確実に根づき始めています。「経済」という数字や制度で語られがちな世界と,「多文化共生」という人と人の心の距離を扱う世界。一見まったく異なる二つの領域が,実は深くつながっている――そんな確信を,この号の執筆や取材を通して強く感じました。
本号では,ファーラー・グラシア教授の基調講演「Immigrant Japan」に始まり,日本の移民政策やナショナル・アイデンティティをめぐる構造的な課題を丁寧に読み解きました。続くパネルディスカッションでは,「暮らし」と「仕事・経済」という二つの視点から,個々人の経験と社会の変化が交差するリアルな声が紹介されました。多様性とは単に「違いを認めること」ではなく,「共に価値を創り出すこと」である――そんなメッセージが,登壇者の一言一言から伝わってきました。論文パートでは,後藤裕幸氏による外国人市場の拡大分析,佐々木聖子氏による政策転換の歩み,石橋英宣氏による長期経済予測など,それぞれの専門分野から「多文化共生が日本経済の持続可能性にどのように寄与しうるか」を明快に示していただきました。どの論考からも共通して見えてきたのは,「共に働く」ことの中に新しい経済の可能性があるということです。さらに,日立グループで活躍する外国ルーツの従業員の声や,順天堂大学「やさしい日本語部」の取り組みなど,現場からの実践事例も多く紹介しました。これらは,多文化共生が政策や理念の次元を超え,すでに地域・企業・教育現場の中で動き始めていることを実感させてくれます。
経済は人がつくり,人は出会いの中で育ちます。異なる価値観や背景を持つ人々が出会い,語り合い,共に何かを生み出していくこと――その小さな積み重ねこそが,これからの日本社会を動かしていく力になるのだと信じています。この第5号が,皆さまにとって「多文化共生」をもう一歩,自分ごととして考えるきっかけになれば嬉しく思います。そして,ここに集まった多くの声が,どこかで誰かの心を静かに照らすことを願って。


