5.今後の課題・展望・提言等 COVID-19 はこれまで人類が経験したことのない新型コロナウイルスによるパンデミックであっただけに,ウイルスの毒性をはじめ,感染経路や感染の仕方,感染伝播力や速さ,変異のリスク,免疫回避の程度など,さまざまな疫学上の因子について,蓄積された科学的な統計データがほとんどなかった.したがって,本研究の分析の多くの部分は,限定的に利用可能なデータに依存している.その点は本研究のモデル分析の問題点である.今後の課題として,偏りのない現実のデータを使って,結果の妥当性をさらに検証することが必要がある. 本研究による研究成果は既述の通りであるが,各研究成果は個別に将来のパンデミック再来時に有益である.特に,日本チームによる主たる成果は新しい感染症伝搬モデルの理論的構築であるため,理論そのものに本質的価値があると考えられるが,いかなる理論もデータによる妥当性の検証が様々な形で行われるべきであることは論をまたない.そういった意味で,将来的な課題は様々に残されていると言えよう. 本研究の欧州,北米,アジアの 3 グループに関わった研究者は,個別の研究成果だけでなく総合的な討論を行い,以下のような未来への提言を行った:①社会心理的・経済的側面の考慮 ■ COVID-19 のさまざまな対策が,どの程度有効あるいは無効であったのかを定量的に検証すべきである. ■ パニックを避けるための準備をし,NPI に対する人々の行動を理解する必要がある. ■ 情報を公開し,推測や主観的判断ではなく,根拠に基づいた意思決定を喚起する必要がある. ■ 効果的な介入は健康関連の生活の質(QOL)の損失を生じた.医療経済学者は科学的根拠に基づき,効果とコストのバランスを分析・提示する必要がある. ■ GDP や生活の質への影響を最小限に抑える情報があれば,予防的介入の措置の負の影響を理解し,それを軽減する方法を見つけるのに役立つ.なぜなら,死亡率が上昇し続けることを,どのレベルまで許容するかについての社会的コンセンサスを得ることは難しいからである.②具体的対策での留意点 ■ ワクチン接種は非常に重要である.速やかな検査体制の構築やワクチン開発を可能な限り加速させる準備をしなければならない.ワクチン開発・流通能力があれば,質調整生存年(QALY)の損失を減らし,経済的コストも節約できる.但し,ワクチンは疫学上の一つの因子に過ぎないため,本研究で得られたような予測式を用いて,ワクチンの影響を評価すべきである. ■ 現実の感染予防対策での弱点を見出し,それを補強すべきである(例:職域での空気感染防止のため,特に学校内の室内換気システムを改善する). ■ 将来のパンデミック克服のためのエビデンスに基づいたガイドラインが必要である. ■ 今回の日立 COVID-19 国際共同研究で日本チームにより開発された検疫・感染制御理論の実用化が検討されるべきである(例:各国の公的感染症対策チームでの学習と実践).③新たなパンデミック発生時の注意点 ■ 呼吸器系パンデミックでは,有効な不織布マスクの供給と着用が最初の重要な NPI となった.最初の重要な NPI を見出すためには,パンデミックの病理学,疫学・公衆衛生,経済,医療資源の現実の利用可能性など,多面的な知見が必要である. ■ 最初の重要な NPI については,パンデミック初期での早期導入が必須であるが,同時にその介入の効率と限界を認識しておくことが,次の NPI 導入についての意思決定を行う上で重要となる. ■ 政府は政治的な配慮ではなく,検疫の原則とガイドラインに従って,医療と経済のバランスをとる対策を行うべきであるが,そのためには専従専門家チームによる科学的根拠に基日立感染症関連研究支援基金 研究成果報告書Regarding Multiple Factors in Epidemic. Research Poster EE28, ISPOR Europe 2023, Copenhagen, Denmark, Nov 13, 2023. 8. Kamae I, Ahn J, M Kobayashi: Learning from the COVID-19 pandemic and designing a new HEOR research model: What is the role of real-world evidence and how does it work? Breakout Session, ISPOR Real-World Evidence Summit 2025, Tokyo, Japan, Sep 29, 2025.18
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