不明確であった.COVID-19 の渦中において,専門家はかつてないほどメティア報道を通じて公共空間に頻繁に登場したのである.報道機関の文化と社会の支配的な政治文化は専門家の異なるメディア表象を形成する.そこで本研究では日本と中国を比較し,パンデミック政策や科学に対する見解の相違点・類似点を踏まえ,両国のメディア報道において専門家に与えられていた役割を探究した.1.2.2 研究方法・経過 本研究では,引用される人物の特徴を示し,メディア内容における行為者の役割のインジケータとして機能する専門家の直接引用を分析した.2020 年から 2023 年の COVID-19 関連ニュースを両国の代表的な 4 つの新聞紙から収集し(図 2A),抽出された専門家の直接引用を専門家タイプの分類,トピックのグループ化,専門家引用のラベリングの 3 段階で分析した(図 2B).1.2.3 研究成果 日中両国共通の特徴として,専門家の発言は感染・ワクチン・薬品の開発の研究結果説明,対策措置・ワクチン接種の効果評価や感染状況予測の提供,市民への助言のために引用されていた.相違点として,日本では否定・肯定が混在したトーンが一般であったが,中国では肯定的なトーンが主流であった.また,日本では称賛・批判のコメントは少なかったが,中国の専門家は常に政府の政策を支持するチアリーダーであったにも関わらず,中国の制御措置を称賛する専門家はほとんど引用されていなかった. 日本では実際には専門家が政府に複数の選択肢を積極提供し,政府が受動的に最終決定する流れがあった.しかしアジェンダ設定目的で,メディアは専門家を政策主導するが批判の少ない積極的唱道者として引用されており,これが専門家が政策の意思決定に責任を負っているという誤ったイメージを生み出したといえる.中国では,専門家は政策の意思決定に密接に組み込まれ実際に大きな影響力を与えたが,メディアはプロパガンダの目的で専門家を科学のみの分野で引用し正統性を高めていた. これらの比較は,メディアにおける専門家の声のメディア構築を示すだけでなく,さらに,社会が健康危機にどのようにシステム的に対応したかを反映するインジケータとなり得る.そこでは,誰が発言を許され,何を発言または伝達することが許されるかが決められている.パンデミックは複雑な問題であるため,本研究が明らかにした提言者の不在や,公共の議論での科学と社会科学の境界に関して,健康危機への対応がワン・ボイス乃至ユニーク・ボイスや技術的知識のみによって正当化できるかという疑問と実際の状況と併せて,さらなる議論が必要である.その議論から,専門家に期待される役割が浮かび上がってくるだろう.1.3 専門家によるソーシャルメディアを通じたCOVID-19 情報の伝達と国民感情〜日中の比較分析から1.3.1 研究目的 本研究の目的は,日本と中国における専門家による COVID-19 関連情報の SNS 上での発信の特徴を明らかにし,国家間比較を通じて,異なる政治体制・社会構造における専門家のリスク・コミュニケーションの相似点と相違点を実証的に解明す日立感染症関連研究支援基金 研究成果報告書図 2 A)各段階における対象データ数とその経時変化;B)分析の 4 つのステップ.32 (B) (A)
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