日立感染症関連研究支援基金 研究成果報告書(日本語)
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(Jasanoff et al. 2021)は「専門家の知識を公共政策において用いるにあたって,何がそれらを信用できる,正当な,そして信頼できるものとしているのか」という論点こそが,危機における科学・技術・社会における主要な問いであると喝破した.そこで重要になるのが “social compact” の機能・役割とそれに対する見方の更新の必要性である.Social compact は,日本で一般には social contract(社会契約)として理解されているものと同種であり,CompCoRe 中間報告書が述べるように,その古典的理解では市民と市民,あるいは市民と国家の関係についての概念と受け止められてきた.これに対して Jasanoff らは,21 世紀においては,“epistemic authority”(認識上の権威)こそが最も重大な問題になることを自覚し,従来の概念を補完する必要がある,それこそが科学技術社会論が科学・技術・社会の相互作用に関してかねて主張してきたことだと指摘する. こうした理論的主張を COVID-19 パンデミック後の日本の状況に適用しつつ,その当否を検討し,また学術的・社会的示唆を得るためには,質的・量的データを収集した上で,日本社会では専門知やそれを有する専門家が危機への対応,その際の政策形成・決定においてどのように位置づけられたのか,また,それがどうあるべきだと人びとに目され,また現実がそれとどれだけ一致したりしなかったりしたのかを実証的に問うことが必要だと考えられた.1.6.2 研究方法・経過 そこで,本研究では,COVID-19 パンデミックのガバナンスにおける主要な論点に着目し,マスメディアのデータ,公的文書,聞き取り調査の分析により論争の軌跡を追うことで,専門知と政治や政策決定との相互作用についての主要な見解・前提を整理することを試みた. COVID-19 パンデミックが生じた 2020 年初頭から 2022 年までの国内新聞各紙の記事について,①水際対策,② PCR 検査,③「空気感染」,③医療,④差別,⑤市民(社会),⑥専門知に関する内容を含むものをトピックモデリングにより抽出し,コーディングを行って内容分析を行った. また,パンデミック時の危機対応における科学的助言に関与した専門家への聞き取り調査を並行して実施し,異なる立場や専門性を有する当事者の認識の共通点や差異を抽出することを試みた. 1.6.3 研究成果 調査分析の結果,前項で挙げた 6 つの論点について対立する見解が,立場を異にしつつも共通して強力な科学主義,技術解決主義,本質主義,そして欠如モデル的な市民観を有している可能性が示唆されている.政治や社会的価値観を専門知や科学技術の領域から分離して考えるアプローチはパンデミック中により強固になり,どのような専門知が妥当であるかという議論や,専門知の政治性や優先すべき社会的価値観は何かという議論を妨げてきた可能性が強く示唆された. これはすなわち科学的助言に関する日本社会における social compact そのものであり,かつ,それは 21 世紀における social compact,その中でも特に重要とされる epistemic authority のあり方についての問い直しや刷新を妨げる傾きを強く持っているものと解釈できる.すなわち,日本社会の科学的助言に関する social compact はそれ自体が自己言及的な省察を難しくする含みを持つわけで,これは 科 学 社 会 学 に お け る「構 造 災」概 念(松 本2002=2012; 2009; 2012)とも通底する,同型の失敗を繰り返し生じることを通じて公益を毀損し続けるシステムを構成している可能性が高い. 特に,本来は真っ先にこうしたシステムを批判的に分析し,乗りこえる示唆を与えるべき科学技術社会論の分野においても,日本では独特の展開が見られ,それらが同様に上記の特質を共有し,むしろ強固な social compact の一部を構成しているらしいことは特筆される. すなわち,国内の STS 分野では,いわゆる「踏み越え」論が,専門家やその助言が政治・行政と科学の界面における位置どりについて,規範的な側面にも力点を置いた分析を加えた(例えば尾内・調 2020,本堂 2020,米村 2020,さらに議論の整理として定松 2021,廣野 2022)り,あるいは,それにさらに加えて助言の内容を対抗的な専門知に照らして批判的に検討し,代替案を提示しよ う と す る 取 り 組 み も 見 ら れ た(例 え ば 本 堂2020,2022),いずれも学会内の議論に大きな論点をもたらした. しかしながら,例えば,COVID-19 パンデミックに際しての最も主要な科学的助言のしくみであった「専門家会議」等の助言組織に「踏み越え」をさせているのは誰か,あるいは何か.もちろん,政治家,官僚あるいは専門家自身の意図や相互作用がその背後にあることには疑いはない.しかしながら,social compact 論から見れば,市民社会が望まない,許容しない「踏み越え」が冒されたという捉え方ばかりではなく,広範な社会的期待37日立感染症関連研究支援基金 研究成果報告書

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