日立感染症関連研究支援基金 研究成果報告書(日本語)
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・ 仮説 3.新型コロナに関するリスク認識は,政となるリスクと相殺されるリスクの種類,影響を受ける集団によって下記のタイプがある(Graham and Wiener 1997).(1) リスク相殺:目標リスクと相殺リスクが同型であり,同人口に影響する場合.例えば,コロナ封じ込め政策が同じ住民のマラリア感染リスクを高めてしまう場合.(2) リスク代替:目標リスクが同人口の異なるタイプのリスクに影響する場合.例えば,コロナ封じ込め政策が同じ住民の貧困リスクを高めてしまう場合.(3) リスク移転:目標リスクが異なる人口の同型のリスクに影響する場合.例えば,A 地域のワクチン配布を優先するために B 地域の感染リスクが高まる場合.(4)リスク変換:目標リスクが異なる人口の異なるタイプのリスクに影響する場合.例えば,都市でのコロナ対策の強化が農村地域の生計悪化につながる場合. これらのリスク・トレードオフを分析するうえでは,研究対象地域の人々が新型コロナに加えてどのようなリスクにさらされているのかを把握する必要がある.次節で詳述する 7 か国共通質問紙調査の中で私たちは 15 のリスクを列挙して人々のリスク認識を把握した.その結果,対象地域の人々は新型コロナをハイリスクと認識しておらず,経済的困窮などの方が深刻であった. 本研究はさらに踏み込んで,新型コロナを「ダウンサイドリスク」ととらえる見方を提示する.ダウンサイドリスクとはもともと,経済用語であり,目標や期待収益を下回るリスクを指す.しかし,アマルティア・センの人間安全保障に関する報告書では,より一般的に「突然の貧困化」のリスクとして定義され,脆弱な人々を複数の困難にさらすリスクを指した(Sen 2003).新型コロナのパンデミックとそれに関する政府の政策は,新型コロナへの感染リスクだけでなく,他の病気が悪化するリスク,生計が悪化して貧困状態を悪化させて飢餓に陥るリスク,教育機関の閉鎖によって教育を受ける機会を失うリスク,家庭内暴力や取り締まりによる暴力にさらされるリスクなど,多様なリスクに影響を及ぼす.したがって,新型コロナは,人々を襲う多様なリスクを誘発し,複数のタイプのリスク・トレードオフをもたらすダウンサイドリスクであるとらえる.本研究の調査では,新型コロナだけでなく他のリスクとのかかわりの中で,リスクにさらされた人々の視点からリスクを観察する. さらに,過酷な環境にもかかわらず,しかも公的なサービスや支援が不足しているにもかかわらず,人々は困難を乗り越える姿が観察された.そのため本研究では,人々が身の回りの生活の知恵を駆使してリスクを克服していく対処戦略(Cop-ing strategy)をとらえることに尽力した.人々は,悪化した生計を立て直すため,あるいは失った教育の機会を取り戻すために多様な対処戦略をとり,レジリエンスを示した.レジリエンスは,柔軟な方法で困難を乗り越える力を指す心理学的用語である.人が何らかのストレスを受けて機能が低下した状態から回復し,本来の機能にまで戻ったり,あるいはそれ以上まで機能が高まったりする力を示す.新型コロナの場合,アフリカにおいて新型コロナがほぼ制御下にあるとみなされた 2022 年までの間に,パンデミックは繰り返し人々を襲い,封じ込め政策も繰り返し実施された.それでもなお人々が機能を回復した過程にはどのような対処戦略があったのかという点もまた,新型コロナパンデミックから学ぶべき重要な教訓になるはずである.3.研究方法 社会科学における学際的研究手法を採用し,以下の 6 段階での調査研究を行った.3.1 研究チームの設置 研究対象地域であるアフリカ 7 か国(ウガンダ,エチオピア,ケニア,コンゴ民主共和国,ジンバブウェ,タンザニア,南アフリカ)の現地研究機関と連携し,日本在住のアフリカ研究者をリーダーとする 6 つの研究チームを編成した(ケニアとタンザニアは合同チーム).3.2 文献調査 アフリカにおける新型コロナ感染症拡大に関する研究論文および国際機関等の報告書を収集して分析するとともに,リスク認識に関する先行研究を精読し,リスク認識とリスク・トレードオフの観点から以下 3 点の仮説を立てた.・ 仮説 1.アフリカ諸国では,新型コロナの感染拡大下でも,他のリスクの方が認知が高い.・ 仮説 2.アフリカ諸国では,新型コロナの感染自体よりも,感染対策がもたらすリスクの方が人々に深刻な影響をおよぼしている.43日立感染症関連研究支援基金 研究成果報告書

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