たとえば,私の大学の周辺には,中山間地域で高齢化が進み,人口が減少している限界集落があります.そこに医師として関わっている方がこんなことをおっしゃっていたんです.「わたしが保健師さんを派遣して集めた情報よりも,あなたの大学の学生が地域に入って書いたメモのほうが,よほど役に立った」と.私は思わず「でも学生は専門家じゃないでしょう?」と聞き返したのですが,こう言われました.「保健師が来ると,行政が来たと思って,住民はなかなか心を開かない.でも学生が来ると,孫が来たと思って,心を開いてくれるんですよ」と.そうした関係性の中で得られた情報が,非常に貴重だったというんですね.そういう意味でも,「健康に関する情報」というのは,信頼関係の上に成り立っているものだと,改めて感じました.そして,その信頼を大事にされている点が,華井先生の研究でとても印象的でした. その次のグループ,早稲田大学の田中先生のご発表についてですが,今のように SNS が広がっている社会,さらには生成 AI の登場によって,本当にそれが「人間が作ったものなのか」「誰が作ったのか」が分からないような時代において,情報だけが先に拡散していってしまう.そのような状況の中で,真実をどう見極めるのかということは,非常に重要な課題であり,田中先生の研究では,そうした状況に対して,基盤的な要因を整理してくれた印象を受けました.これも,まだワーク・イン・プログレスだと思いますので,ぜひここで止めずに,我々の理解がさらに深まるよう,取組みを継続していただければと思います. また,私自身,今の社会がどこかガタガタし始めているように感じています.その背景には,「信憑性の保障」が以前よりも難しくなっているという問題があるのではないかと思います.田中先生のご発表は,そうした現代社会における基盤をどう構築するかを考えさせるものでした.これはマスメディアにとっても,またパーソナライズドメディアにとっても非常に重要な課題であり,人間社会がちょうどその曲がり角に来ているのではないかという気がしています. そして,このセッション全体を通じて私が強く感じたことの一つは,皆さんが今,学術的な「コミュニティ」を形成し始めているという点です.かつては「マスメディア」というかたちだったが,今は社会全体が「パーソナライズ」され,「Personalized Aggregation(個別最適化された集約)」が流動的なもので,「Fixed Community(固定的なコミュニティ)」ではなくなってきているわけです. そうした「Fluid Community(流動的なコミュニティ)」の中で,最近データサイエンスの分野でよく耳にするのが「Homomorphic Community(構造的に類似したコミュニティ)」という言葉です.これは,同じような価値観や精神的な基盤を持つ人々が集まるコミュニティの中でしか,大事な情報を共有しないようにする,ということですね.信頼できるコミュニティの中でのみ情報をシェアする,と.その一方で,こうした Homomorphic Community A と B がどう関係を築いていくかという点は,おそらく皆さんが国内外の研究パートナーと協働されている形と通じるものがあるのではないでしょうか.違うコミュニティ同士ではあっても,その内部では高い信頼関係が築かれさえすれば,それが地理的な距離を超えて成立しうる,私はそう感じました.そして,その基盤となっているのが,皆さんの「使命感」と「スカラーシップ(学術的知性)」,そして「トラスト(信頼)」と「フレンドシップ(友情)」なのだと思います.そうした価値を大切にして研究を進めていけば,田中先生が指摘されたような心配も,乗り越えていけるのではないかと期待しています. その次の金子先生のお話でも感じたのですが,やはり先進諸国で何かが起きたときにはレスポンスが早い.一方で,新興国や,経済的に後進的な側面を持つ国々で何かが起きたときには,どうしても反応が鈍い.また,一つの問題が大きく取り上げられると,他の問題が忘れ去られてしまう恐れもあります.そうしたことを浮き彫りにするために,アフリカでのマラリアの継続的な蔓延を取り上げられたのは,と58
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