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日立財団Webマガジン「みらい」VOL.2
日立財団

論文特集

親子関係の解剖学
~その闇に迫る

巻頭言

本特集は現代における親子関係の闇を紐解くために、種々の領域からのアプローチを試みるが、そこに共通するキーワードは「愛着」であり、健全な親子関係を構築するための重要な要素であることを提示している。しかし、現代社会には親子関係の基盤である「愛着」を阻むさまざまな社会現象がみられる。そこで、本特集は、改めて健全な親子関係のあり方をどのように構築すればよいかを考える素材を提供したい。

論文1
大村 菜美 氏
理化学研究所
脳科学総合研究センター
親和性社会行動研究チーム
大村 菜美
黒田 公美 氏
理化学研究所
脳科学総合研究センター
親和性社会行動研究チーム
黒田 公美

脳科学からみた親子関係

人間を含む哺乳類の子どもにとって親との関係は生命線であり、子どもは積極的に親に愛着し協力している。親にとっても育児は命がけの重労働である。親子が協力し、時に譲歩しあいながらうまく関係を築いていくためには、さまざまな経験や学習を重ねることで、愛着と育児に関わる脳内の回路を発達させていく必要がある。

INDEX
  1. 親の養育行動とそのメカニズム
  2. 子の親への愛着
  3. 親子間の行動・反応
プロフィール

大村 菜美 氏
理化学研究所脳科学総合研究センター親和性社会行動研究チーム 研究員。鳥取大学医学系研究科博士後期課程修了。脳神経回路の発達・可塑性について研究したのち、2015年より現職。現在は、子の愛着行動を制御する脳部位探索、授乳時の母親の生理的反応に関する研究に従事。

黒田 公美 氏
理化学研究所脳科学総合研究センター親和性社会行動研究チーム チームリーダー。大阪大学大学院医学研究科博士課程修了。カナダ・マギル大学博士研究員として留学した2002年から親子関係の研究を始める。理化学研究所基礎特別研究員、ユニットリーダーなどを経て、2015年より現職。著書:「親子のつながりを作る脳」(『つながる脳科学「心のしくみ」に迫る脳研究の最前線』、講談社、2016)など多数。

論文2
斎藤 学 氏
医療法人社団學風会さいとうクリニック
理事長
斎藤 学

毒親と子どもたち

もう少し積極的な介入(お節介)に踏み込むこともある。何年にもわたって引きこもっていたり、過食嘔吐サイクルから離れられなくなっていたり、更に悲惨なことに、これらに万引き癖がかさなったりしている場合である。こういう、少々切迫した状況の際には、彼らの前に無限に広がる時間の有害性について会話してから、「忙しくなる方法」を考える。

INDEX
  1. 毒親論の起源
  2. 毒親のタイプ
  3. 毒親論に救われる人々
  4. 現代人の「私」ノイローゼ
  5. 宿命論を越えて
プロフィール
1941年東京都生まれ。1967年慶應義塾大学医学部卒。同大助手、フランス政府給費留学生、国立療養所久里浜病院精神科医長、東京都精神医学総合研究所副参事研究員(社会病理研究部門主任)などを経て、1995年9月より家族機能研究所代表。アライアント国際大学カリフォルニア臨床心理大学院名誉教授(2002年3月~)。
医療法人社団學風会さいとうクリニック理事長。医学博士。日本嗜癖行動学会理事長、同学会誌『アディクションと家族』編集主幹。日本家族と子どもセラピスト学会理事長、特定非営利活動法人日本トラウマ・サバイバーズ・ユニオン(通称・JUST)理事長。日本子ども虐待防止学会名誉会員。
主な著書に『依存症と家族』『「家族」という名の孤独』『アダルト・チルドレンと家族』『「家族」はこわい』『家族の闇をさぐる』『男の勘ちがい』『自分の居場所の見つけかた』『家族パラドクス』『「家族神話」があなたをしばる』など。訳書に『父-娘近親姦』『シークレット・トラウマ』他。最新刊『「毒親」の子どもたちへ』、訳書『性嗜癖者のパートナー彼女たちの回復過程』。
論文3
西村 純子 氏
明星大学人文学部
教授
西村 純子

家族構造と親子関係
―母子世帯・ふたり親世帯の母親の子どもと過ごす時間の比較―

子どもに何かを教えたり、子どもと遊んだり食事をしたりすることは、子どもの発達をうながすと同時に、親子が親子としての関係を育て、親としての楽しみを味わうことのできる時間でもありうる。母子世帯の母親はふたり親世帯の母親より、そうした時間を確保することが難しい状況にある。

INDEX
  1. 親から子への「投資」としての時間
  2. 母親が子どもと過ごす時間についてのトレンド:減少か、増加か?
  3. 家族構造と親が子どもと過ごす時間に関する
    先行研究
  4. 分析課題
  5. 方法
  6. 分析結果
  7. 議論
プロフィール
明星大学人文学部教授。慶應義塾大学大学院社会学研究科修了、博士(社会学)。専攻は、家族社会学。仕事と家族生活をつなぐ社会のありようについて、女性の就業行動やメンタルヘルスなどに注目して研究してきた。また家族・地域社会のなかでの子どもの育ちにも関心をもっている。
主な著作に、『ポスト育児期の女性と働き方――ワーク・ファミリー・バランスとストレス』(慶應義塾大学出版会、2009年)、『子育てと仕事の社会学――女性の働きかたは変わったか』(弘文堂、2014年)、Motherhood and Work in Contemporary Japan (Routledge, 2016年)など。
論文4
岡田 尊司 氏
岡田クリニック院長
日本情動学会理事
医学博士
岡田 尊司

崩壊家庭における愛着障害

愛着を守るという観点からすると、せっかく多額の税金を投入するのであれば、質の悪い子ども園を乱造するよりも、母親が経済的な心配や職場復帰の不安をもつことなく、少なくとも2歳までは、希望する人が誰でも育児に専念できる仕組みを整えることではないのだろうか。

INDEX
  1. 愛着と愛着障害
  2. 遺伝要因と環境要因のコラボ
  3. 離婚やひとり親家庭の増加と高まるリスク
  4. 離婚と不安定な愛着
  5. 社会経済的リスクに虐待が加わるとき
  6. 愛着関連精神障害の増加と行き詰まる
    医療的サポート
  7. 愛着モデルに基づくアプローチ
  8. 負の連鎖をいかに食い止めるか
プロフィール
京都大学医学部卒業、同大学院医学研究科修了、医学博士(京都大学)。日本精神神経学会認定専門医、大阪心理教育センター顧問、日本情動学会理事。
1960年、香川県に生まれる。東京大学文学部哲学科に学ぶも、象牙の塔にこもることに疑問を抱き、医学を志す。ひきこもった時期や多くの迷いを経験する。京都大学医学部で学んだ後、京都大学医学部大学院精神医学教室などで研究に従事するとともに、京都医療少年院、京都府立洛南病院などに勤務。山形大学客員教授として、研究者の社会的スキルの改善やメンタルヘルスの問題にも取り組む。著作家や作家・小笠原慧としても活動している。
論文5
守山 正 氏
日立財団Webマガジン「みらい」編集主幹
拓殖大学政経学部 教授(犯罪学・刑事法専攻)
守山 正

親子間の葛藤 ~親殺し・子殺し

わが国は殺人全体における家族間殺人の比率が高い国として知られる。現代社会において、親殺し・子殺しという親子関係の闇は静かに進行しており、インターネット社会など高度な科学技術が進む中でも、いわば原始的な家族の葛藤が形を変えて繰り広げられている。子どもに関していえば、虐待死という物理的な形態だけでなく、児童虐待における心理的虐待も、いわば現代版「精神的な子殺し」と言える。

INDEX
  1. 家族間の殺人
  2. 親殺しの状況
  3. 児童の心中死・虐待死
  4. 子殺しの状況
プロフィール
早稲田大学大学院法学研究科博士後期課程修了。ケンブリッジ大学犯罪学研究所客員研究員、国連ローマ犯罪司法研究所(UNICRI)客員教授などを経て現職。早稲田大学・東京大学非常勤講師。旧日立みらい財団が1969年より刊行の「犯罪と非行」の編集委員として、長年にわたり犯罪や非行のないより良い社会づくりに貢献してきた。日立財団Webマガジン「みらい」編集主幹。
著書に、『犯罪学への招待』(日本評論社、1997年)、『イギリス犯罪学研究Ⅰ』(成文堂、2011年)、『ビギナーズ犯罪学』(成文堂、2016年)、『イギリス犯罪学研究Ⅱ』(成文堂、2017年)など。
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