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公益財団法人 日立財団

倉田奨励金は、日立製作所第2代社長、倉田主税の提唱によって1967年に創設された研究助成金です。自然科学・工学研究部門の3つの分野(エネルギー・環境、都市・交通、健康・医療)と、高度科学技術社会に通底する人文・社会科学研究部門の4つの部門、分野で募集を行っています。
本年度は全国から計316件の応募をいただき、選考委員会による厳正な審査の結果、48件の研究課題に対する助成金を決定しました。

なお倉田奨励金は毎年3月1日に贈呈式を執り行っておりますが、昨今の社会状況を鑑み、誠に残念ながら今年度の開催は中止とさせていただきました。贈呈式のご報告に代えて、助成が決定した研究テーマの概要、選考経過報告と受領者代表ご挨拶を紹介いたします。

2020年度(第52回)倉田奨励金
研究概要

倉田奨励金 受領者件数
自然科学・工学研究部門 エネルギー・環境分野12件
都市・交通分野6件
健康・医療分野19件
37件(応募数260)
人文・社会科学研究部門 11件(応募数 56)
合計 48件(応募数316)

※過去の助成実績についてはこちらをご覧ください。

選考経過報告

選考委員長 大西 隆

2020年度 第52回倉田奨励金の選考経過について報告いたします。
本年度の倉田奨励金は、昨年7月1日に日立財団ホームページに募集案内を掲載し、応募締め切り日の昨年9月15日までに、 88大学、高等専門学校1校、13の研究所・研究機構から計316件の応募がありました。
倉田奨励金は、昨年度から自然科学・工学研究部門で従来の1年間の研究助成に加えて、2年間の研究助成を設けるとともに、新たに人文・社会科学研究部門への助成をスタートしており、今年度も自然科学・工学研究部門の3分野、(1)エネルギー・環境、(2)都市・交通、(3)健康・医療と、人文・社会科学研究部門の4つの部門・分野において募集を行いました。

今年度の応募数の内訳は、自然科学・工学研究部門がエネルギー・環境分野:84件、都市・交通分野:24件、健康・医療分野:152件、の計260件でした。
また2年目となる人文・社会科学研究部門には56件の応募がありました。

自然科学・工学研究部門への応募は、3つ分野の中にもそれぞれに幅広い分類の研究テーマが見られ、多岐にわたっておりました。社会変化により近年増加傾向にあった環境技術、防災、自動運転、精神医学等に関する研究に加えて、今年度は新型コロナウィルス感染症の影響を受け、室内環境の整備、非接触技術、人間の行動分析などの研究テーマも見られました。
いずれの提案も、新しい視点で課題に取り組もうとする姿勢が表れており、技術的、学術的水準も高く、基礎研究と応用的インパクト、それぞれの視点から慎重に選考させていただきました。

今年2回目の募集を行った人文・社会科学研究部門には、今年度も科学技術の活用インパクト、倫理的インパクト、法的課題、政策課題、歴史的考察といった領域から、興味深い研究テーマを多数応募いただきました。また自然科学・工学研究部門と同様に、新型コロナウィルスに関連した、新しい社会の在り方を考える研究も複数見られました。
いずれの提案もユニークな視点で、かつ社会的意義のあるものでしたが、その中から本部門の助成の主旨である高度科学技術社会の在り方を専門分野から考察するもの、科学技術と社会の最適性、といった視点を重視し選考にあたりました。

選考委員会では部門、分野間の採択率に大きな差が出ないよう、また、多彩な研究をバランスよく助成するよう配慮しつつ、厳正な選考を行い、2020年12月4日開催の選考委員会において、48件の研究課題(自然科学・工学研究部門:エネルギー・環境 12件、都市・交通 6件、健康・医療 19件、人文・社会科学研究部門:11件)に、合計金額54,914,000円の助成が適当であるとの結論に達し、理事長の承認を得て、贈呈を決定いたしました。
今年度の採択率も自然科学・工学研部門が14.2%、人文・社会科学研究部門が19.6%とたいへん厳しい結果であります。採択された皆様方の研究は、いずれも独創性に富み、かつ社会的要請に対応し、すぐれた成果を挙げられる可能性が大きいものと、選考委員一同、期待しております。
本日贈呈いたします倉田奨励金が、有効に活用され、受領者の皆様の研究に役立つことを念願しております。

受領者代表挨拶

自然科学・工学研究部門

エネルギー・環境分野

早稲田大学理工学術院 博士課程2年
 岡 弘樹

岡 弘樹氏

この度は、大変名誉ある2020年度(第52回)倉田奨励金に採択いただきましたこと、エネルギー・環境分野の採択者を代表し、厚く御礼申し上げます。

エネルギー・環境に関する問題は、地球上に生きている以上、切っては切れない社会課題であります。2050年温室効果ガス実質ゼロを掲げる日本においても例外ではなく、エネルギー・環境に関する基礎・応用研究の強力な推進は不可避であり、今後さらなる加速が求められると思います。

自身が倉田奨励金で採択いただいた内容は、有機高分子を光触媒として用いたカーボンフリーグリーン水素製造法の確立に関する研究です。

水素は次世代のクリーンエネルギーとして古くから注目されており、石油精製やアンモニア合成、ステンレス鋼の製造、中核化学物質(メタノールなど)、食品 (マーガリンなど)の生産のための還元剤として使用される産業上重要な化学原料でもあります。多用されている水素は、炭化水素系の化石燃料から製造されており、副生産物として二酸化炭素など炭素化合物を必ず生じます。二酸化炭素の排出を伴わない、持続可能かつコストにみあったカーボンフリーグリーン水素製造法の開発は急務であります。これまで、炭素を含まない水を原料として、無機半導体による太陽光水分解や、風力・太陽光発電のような再生可能エネルギーを用いた水の電気分解による水素製造が、国家プロジェクトなど強力に推進、検討されてきています。本研究では、倉田奨励金のご支援を頂戴し、有機化合物(π共役高分子)に可視光を照射し、水から水素と酸素を別々に効率よく製造できる、フィルム形状モジュールの材料およびプロセス条件を明らかにします。有機高分子による水素製造は、耐久性も高く、貴金属を一切使用しないなど、無機半導体と比較し大きなメリットがあります。二酸化炭素の有効活用を考える際にも水素は相方(還元剤)となることが多く、持続可能な水素製造法の開発により、温室効果ガスゼロエミッションに向けた、世界規模でのエネルギー問題解決に貢献して参ります。

我が国において、若手研究者への支援の拡充は確かに進んでおりますが、博士学生の研究に対する支援・補助はほとんどございません。今回、倉田奨励金のエネルギー・環境分野における学生の初めての採択は、博士学生の自由でかつ独創的・先駆的な研究を強く後押しするものとして、我が国の博士学生の拡充にも必ずやつながると確信しております。今後、自身も関わっていく博士学生に、倉田奨励金を採択いただけるよう、バトンをつないでいきたいです。

最後に、改めまして、2020年度(第52回)倉田奨励金に採択いただきましたことに深く感謝申し上げます。今後この名誉に恥じぬよう研究・活動していく所存でございます。日立財団の益々のご発展と、関係者の皆さまのご多幸をお祈りいたします。この度は、誠にありがとうございました。

都市・交通分野

東北大学タフ・サイバーフィジカルAI研究センター、大学院情報科学研究科(兼任)
准教授 多田隈建二郎

多田隈建二郎氏

このたびは、第52回倉田奨励金にご採択いただきまして、大変光栄に思うと同時に、心より深く御礼申し上げます。都市・交通分野の受領者を代表し、公益財団法人日立財団理事長、選考委員、諸関係各位の皆さまにこの場をお借りして深く感謝いたします。ご採択いただきました研究開発により、学術・社会の発展に少しでも貢献できるよう尽力して取り組んでまいります。

本年度は、コロナ禍という世界規模での極めて困難な未曾有の事態が発生し、その収束も見えない中で、各分野の研究開発者、特にその中でもモノづくりに関連する分野の皆様は非常にその活動継続にご苦労されたことだと思います。

私どもも、考案した原理に基づいて試作機を具現化し、その実機を用いた実験によって原理の有効性を確認するというスタイルをこれまで取ってきましたため、本スタイルを可能な限り維持することは非常に困難でありました。一方、このような混沌としている世の中において、どんな状況にあっても揺るぎのない学術は非常に重要であることを再認識いたしました。貴財団での取り組みは、その中核領域の1つが「学術・科学技術の振興」とあるように、まさにこの普遍的な学術を究めることにも価値をおいており、今の世の中に必要な観点であると考えております。

倉田奨励金でご採択いただいた私どもの研究内容は、極限の狭隘空間からの環境サンプルを、低侵襲で回収および保護を実現する球殻飛行体に関するものです。人が侵入できないような狭く入り組んだ空間や高所での空間の点検などを人の代わりに点検する飛行体のニーズが高まっています。このような空間の点検用としての従来のドローン型飛行体は、プロペラが露出しているため、例えば、つらら状の鍾乳石が混在する鍾乳洞やパイプが交錯するプラント点検などの複雑で狭隘な空間において、侵入すること自体が極めて困難でした。
本研究で我々が提案する機体は、球殻ロータ機構を有する飛行体と、柔軟ハンド機構とを組み合わせた構成となっています。前者の飛行体は、プロペラガードと、着陸時に受動回転する車輪としての2つの機能を兼ね備えた球殻構造となっており、上下方向に狭隘な空間にも侵入探査可能なものです。そのため、外部環境に接触しても、従来とは異なり、プロペラで外部環境や人を傷めない、もしくは飛行体自身も保護できるため、墜落する可能性を極力減らせるという特徴を有します。後者の柔軟ハンド機構は、柔軟袋状の構造で対象物を包み込み把持し、把持した後に剛性を高めて保持するというものです。これまでのハンド機構は、把持対象物のサイズ・形状がほぼ決まったもののみに限定されている場合が多く、また把持動作の際に、対象物に過負荷をかけるという問題がありました。我々の柔軟ハンド機構は、多種多様な形状の対象物の把持に加えて、ボルトやとがったガラスなど、鋭利対象物に接触しても破損せずに把持が可能になるという、耐切創性の機能も設けてあります。
これら飛行体と柔軟ハンド機構を統合させた機体は、従来までに極めて困難とされてきた極限狭隘環境への深部侵入と、その環境のサンプル回収・保護という作業の遂行を低侵襲で行うことを可能とします。そのため、狭隘空間からのサンプル回収による分析・発見につながる学術貢献にとどまらず、パイプなどが交錯する複雑狭隘空間としての各種プラント点検においても、ボルトや鍵などの不定形物のサンプル回収などにおいて活躍することが期待できます。倉田奨学金において、この研究内容の活動をご支援いただくことは非常に有り難く、実現に向けて精力的に取り組むことはもちろん、成果発信や社会貢献にも努めてまいります。

最後になりますが、この度はこのような挨拶の機会を設けていただき、誠にありがとうございました。日立財団の益々のご発展と、関係者の皆さまのご多幸をお祈りいたしまして、私のご挨拶の言葉とさせていただきます。

健康・医療分野

神戸薬科大学臨床薬学研究室
 准教授 原 哲也

原 哲也氏 研究室集合写真

このたびは、第52回倉田奨励金に採択いただき、大変光栄に存じます。健康・医療分野の受領者を代表し、公益財団法人日立財団理事長、選考委員、関係各位の皆さまには深く感謝申し上げます。採択いただきました助成金を有効に活用し、社会が直面する課題に対して少しでも貢献することを目指して参ります。

私の所属する神戸薬科大学は研究を重視するという創立以来の伝統があり、科学的素養を身につけ薬剤師資格を得て社会で自立し、社会に貢献できる人材の育成を目的としています。

低学年から「アクティブ・ラボ」で研究室に所属し、研究活動を通して研究マインドの醸成と薬学に対するモチベーション向上を目的としています。4年次から全員が研究室に配属され、自らが目標を設定し、実験・研究をすすめることで、予期せぬ自体を打開する問題解決能力や論理的に思考を重ねる研究マインドをさらに身につけていきます。

 

このような学生たちと共に、私が取り組んでいる研究テーマは「生体イメージング」です。私は循環器内科を専門としているので、血栓症の生体イメージング研究に取り組んでいます。「血栓」は出血から生体を守るため、血管壁を修復する生理的な止血機構として人体に備わった生命防御機構なのですが、この止血機構に何らかの異常が生じたとき、病的血栓がおこり、心筋梗塞や脳梗塞を起こします。これらは一般的には80年の人生のうち、一度生じるかどうか、という疾患なのですが、起こるときにはわずか一瞬で血栓が血流に乗って移動し、あるところで詰まってしまいます。このような血栓塞栓症という病態を理解するには時間軸を失った病理学的解析や、位置情報の失われた生化学的解析では限界があり、そこで、私の研究テーマでもある「生体イメージング研究」が大きく役に立つ可能性があります。

昨今、自然科学のみならず、社会的にも多様な事象、例えば仕事の効率やビッグデータによる人の動きなどの「見える化」による恩恵を我々は受けていますが、私は空間分解能や時間分解能に秀でた二光子顕微鏡を駆使した蛍光イメージングにより、血栓の形成や器質化機構を1細胞レベルで生体内で経時的に「見える化」を可能にすることを目指します。特に現在の新型コロナ感染症において、高齢者が重症化する要因として血栓症が指摘されており、「なぜ、コロナ感染症においては高齢者において血栓症が重篤化しやすいのか?」という疑問を解決することは重症病床使用率を下げるためにも喫緊の課題です。

私の所属する研究室は将来、薬剤師になる学生さんが(研究室全体写真)、新たな医療技術、医薬品開発を目指して真剣に取り組んでくれています。良き学生、良き共同研究者に恵まれ、倉田奨励金を得たこのチャンスをきっかけに二光子顕微鏡による生体血栓イメージングの研究を前進させていきたいと思います。最後に、日立財団の益々のご発展と、関係者の皆さまのご多幸をお祈りいたします。

人文・社会科学研究部門

桐山 大輝氏

東京農業大学大学院農学研究科 博士後期課程 桐山 大輝

このたびは、第52回倉田奨励金に採択いただき、誠にありがとうございます。人文・社会科学研究部門の受領者を代表し、日立財団の皆様、選考委員および関係者の皆様に、この場をお借りして御礼を申し上げます。また、このような挨拶の機会をいただいたこと、至極光栄に感じております。倉田奨励金をもとに、社会に貢献できるよう、研究を推進していきたいと思います。

私は、東京農業大学大学院博士後期課程に在籍しております。東京農業大学の卒業生には農業生産に携わる者も多く、そのネットワークを利用して、生産者の方への聞き取りを行う機会も多くありました。

一方で、収穫祭などの行事では、多くの消費者の方とお話しする機会にも恵まれました。以上のような経験をしてきたなかで、よく耳にする機会の多いキーワードとして、「食と農の乖離」があります。

現在、日本を含む先進各国では、生産者と消費者がお互いの状況を把握できない「食と農の乖離」が発生しています。生産者側からみると、消費者の行動パターンは予測がつかず、生産者は消費者の行動パターンを把握できないという状況にあります。一方で、消費者は、農業生産についての知識が乏しく、有機農産物を好む消費者もいますが、消費者は、生産現場の実態を把握しているわけではありません。現在の農業生産では、生産者が考える消費者と実際の消費者には大きな違いがあり、消費者が考える生産現場と実際の生産現場にも大きな違いがあり、その乖離は深刻な状況です。

私が倉田奨励金に採択された研究課題は、「農薬使用の社会的最適性と生産者・消費者の行動変容」です。以上で述べたような、「食と農の乖離」が進行する状況下では、限られた情報をもとに形成された農産物需要をもとに、生産者は、それに対応する農薬使用を行い、農業生産が行われており、それが農薬使用に関する社会的均衡となっています。農薬使用は地球環境に負荷を与え、人体への健康被害を引き起こすという側面があり、農薬使用の最適化は、持続可能な社会の構築のために、解決される必要のある重要な課題です。

「食と農の乖離」の解消はこのような状況の打破に貢献する可能性があります。消費者が農業生産の現場の状況を把握すると、虫食いのある農産物を許容するといった、消費者の価値観の変容が起こり、これに対して、生産者が農薬使用を変化させ、農薬使用に関する社会的均衡はシフトする可能性があります。

今までの研究では、農薬使用量を削減した農産物に対する消費者の選好を明らかにする研究や、生産者を対象とした研究では、生産者の利潤最大化行動を基本とし、最適な農薬投入量を基準とした、農薬の過剰使用に関する分析が行われてきました。それらの研究では、生産者と消費者の双方を分析に加えることはなされてきませんでした。しかしながら、農業生産が農産物需要に応じてなされるのであれば、生産者と消費者の双方を分析に取り入れることは十分な意義を有すると考えられます。

倉田奨励金の助成を得たことをきっかけとして、研究を推進し、研究成果を発信していきたいと考えております。また、研究を推進するきっかけを与えてくださった、日立財団の益々のご発展と、関係者の皆さまのご多幸をお祈りいたしまして挨拶に代えさせていただきたいと思います。

倉田奨励金は、これまでに1,400名を超える研究者を支援してきましたが、これからも倉田主税が願った理念を守りながら、変化する時代に相応しい活動を推進し、科学技術の発展と豊かな未来社会の創造に貢献していきたいと思います。