2023年3月2日(木)、日立製作所中央研究所 協創の森「日立馬場記念ホール」において、2022年度(第54回)倉田奨励金贈呈式を開催しました。今年度は全国より213件の応募があり、厳正な審査により決定した44名の研究者に対して研究助成金を贈呈しました。
贈呈式では冒頭、理事長の内藤理より皆様からの応募、ご支援に対する感謝の言葉が述べられ、続いて花木啓祐選考委員長から選考経過の報告がありました。その後、受領テーマの紹介とともに受領者一人一人に理事長から贈呈書を手渡し、各部門・分野の代表者4名から今後の抱負などをスピーチいただきました。
今年度受領者44名の研究テーマは下記をご覧ください。
自然科学・工学研究部門 | エネルギー・環境分野9件 都市・交通分野5件 健康・医療分野19件 |
33件 |
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人文・社会科学研究部門 | 11件 | |
計 | 44件 |
エネルギー・環境分野
名古屋大学
宇宙地球環境研究所
中村紗都子 氏
このたびは倉田奨励金に採択いただきまして誠にありがとうございます。また、このような格式高い贈呈式にお呼びいただきまして緊張とともに身が引き締まる思いでおります。
エネルギー・環境の分野というのはまさに世界で今、問題になっておりますが、私のテーマは「1000年に一度の宇宙天気災害」というのをテーマにしております。宇宙天気災害というのはいわゆる太陽フレアの影響が地球に及ぶことを指しています。この時にわれわれの今、社会を成り立たせている人工衛星、通信網や電力網が被害を受けると言われています。主に電磁波によって電磁波を介して影響を受けるわけです。
これらの現代インフラというのはたかだかこの20〜30年で浸透してきたものですが、それに対して太陽フレアというのは100年に一度、1000年に一度、1万年に一度大きな規模のものが起こると言われています。例えば歴史の文献をさかのぼると数千年前の文献に赤道でオーロラが見えたという記載などがあり、そこから1万年に一度、1000年に一度、太陽がすごいフレアを起こしているということが分かっています。こうした太陽フレアに対してわれわれの現代文明というのは何が起こるのかというのは全く未経験になるわけです。
そうした未経験の災害に備えるのが私の宇宙天気災害への研究の課題です。けれども分野としても新しい課題ですし、実は日本ではほぼ全く研究が進んでおらず新しく私が研究を始めたところになります。そうした背景もあって研究室的にも国的にも既存の研究室であるとか既存の研究分野に当てはまるところが少なくて資金的にも、もちろん立場的にも後ろ盾というものが少なかった中で、このように日立財団から奨励金というかたちで応援していただけたことは大変精神的にも支えになります。採択者リストを拝見しましたが採択された皆さまのテーマが本当に多岐にわたっており、審査がいかに難しかったかというのを考えております。お時間を割いていただいた関係者の皆さまにあらためてお礼を申し上げます。ありがとうございます。
都市・交通分野
工学院大学
建築学部
藤賀雅人 氏
このたびは第54回倉田奨励金の採択いただき、またコロナ禍の続く中に贈呈式を開催いただきましたこと誠にありがとうございます。せんえつではございますけれども都市・交通分野の受領者代表をいたしましてごあいさつ申し上げます。
都市・交通政策は人口減少、少子高齢化時代を迎え転換が迫られる分野です。またデジタル技術を用いた研究や環境負荷の低減を目指すアプローチが進んでいくなど研究領域も多様化してきております。都市政策に関し広く支援いただける本助成は研究を推進する上での資金的な支援のみならず研究活動を進める上での大きな励みとなっております。
今回、私が倉田奨励金で採択いただいた研究内容は地方小都市を対象に自治体独自に進められている定住促進住宅の整備の方法論を整理、考察しようとするものです。近年、人口規模が小さな自治体を中心に移住・定住政策の取り組みが活発に行われてきております。こうした取り組みは子育て支援と住環境の提供がセットで取り組まれることが多く、住環境の提供に当たっては空き家の活用を図るケースも少なくありません。また民間資金の導入や管理・運営を担保するPFIなどを選択するケースも増えてきており、住宅整備の事業スキームは多様化してきております。
こうした状況下、事業を進める際に公営住宅の転換のみならず市民からの寄付地を活用するケースがあるなど土地の扱いや長期的な管理の方法など事業計画に違いが表れてきております。一部の先進的な自治体では建設費用分の賃料を払った際に居住者に住宅を無償で譲渡するという新たなスキームも生み出されてきており、公と民の住宅提供の意味合いが変質する状況が社会の中で生まれてきております。
一方で住宅の質の低下や公共住宅整備による再スクロール化を生じさせないために本研究によって基礎自治体独自の定住促進住宅整備の実態を整理、考察し、持続可能な居住の在り方を提起したいと考えております。こうしたアプローチにより空き家対応に集中し、良好な建築特区の新陳代謝を生むというような観点が不足する地域に対してのマネジメントの視点を含めた建設方法を見出していきたいと考えてございます。
また、私どもの分野の助成を受けている研究内容を拝見いたしますと歴史研究からAIを用いたものまで幅広く研究が提案されております。これらの研究が今後の都市づくりや交通政策に対する知見を与えるものになるよう調査、研究にまい進してまいりたいと考えてございます。最後になりましたが財団のますますのご発展と関係者の皆さまのご多幸をお祈りいたしまして私からのあいさつと代えさせていただきたいと思います。
健康・医療分野
東京医科歯科大学大学院
医歯総合研究科
大川龍之介 氏
まず初めにこのような助成金を頂きましたことを日立財団の理事長、選考委員の先生方、また関係者の皆さまに厚く御礼申し上げます。ありがとうございます。
健康・医療部門の代表者としてせんえつながらあいさつさせていただきたいと思います。今回受領したその健康・医療部門の先生方の志というのは恐らく同じではないかなと思っています。疾患を克服することと、また疾患にかかる前の健常者の健康増進をすること、そういった志を持ってわれわれ日々、研究を頑張っているわけです。ただ、いろいろな分野でわれわれ研究をしていますが、研究というのは志だけではできません。
研究するのには研究資金が必ず必要であって、特にわが国は研究資金を獲得するということは非常に困難だと思っております。そのような中でご支援をいただきます日立財団さまには本当にありがたく思っております。ただ、その採択率は先ほど非常に低いというふうにお伺いしましたので、このような研究助成をいただけたことをしっかり身を引き締めて社会に還元できるように頑張っていきたいと思っています。
私の研究テーマは「脂質」になります。健康寿命を延伸するというのは政策の一つであると思いますが、その政策を克服するために死因の割合が多い疾患を克服することがその一つだと思います。死因の第1位が悪性新生物で2位と4位が心血管疾患と脳血管疾患で、その2位と4位に関わるのが脂質異常症になります。現在、脂質異常症のバイオマーカーとしてはHDLコレステロールやLDLコレステロールといった血清学的検査が行われており、ある程度リスクを把握することはできていますが、まだ数十パーセントしかそのリスクは把握できていないと言われています。そのため、いわゆる残余リスクの克服が今、世の中の喫緊の課題であるわけです。
私が注目しているのは赤血球、といいますのも赤血球は血液中の約半分を占めるわけです。赤血球は血清と同じようにコレステロールを多量に含有していることが昔から分かっていますし、最近のわれわれの研究で赤血球もいわゆる末梢から肝臓にコレステロールを運搬するReverse cholesterol transportや、赤血球が能動的に血清とコレステロールの受け渡しをしているということを最近報告しております。ただ、この赤血球関連の脂質の代謝のメカニズムというのはまだ分かってないことが多いため、どのように赤血球が脂質代謝に関わっているか、その分子機構を解明したいと思っております。また現在、赤血球を対象とした脂質異常症の検査というのは皆無です。血清では行っているのですけれど恐らく赤血球でも何か新たな脂質異常のバイオマーカーを把握できるのではないかなと思っています。
実際、例えば悪玉コレステロールと言われるLDLコレステロールが同程度の2群で赤血球のコレステロール含有量を調べると含有量が高いほうが心血管疾患の進展に関わっているという報告もありますので、血清だけではなく赤血球を調べることで新たに把握できることもあるのではないかとわれわれは信じております。赤血球の検査は皆さまご存じのようにヘモグロビンA1cというものがありますので、世の中では赤血球を調べるというプラットフォームは確立しているわけです。そのため、その中で脂質を調べることを発見さえすればすぐに世の中に普及するのではないかと私は考えております。先ほど選考委員長の先生からもお話しがあったと思いますので、今のお話で興味を示された先生がおられましたらこの後ぜひお声掛けいただければと思います。
最後になりますが、しっかり身を引き締めて必ず研究成果を出すということを誓いまして私のあいさつとさせていただきます。ありがとうございました。
京都大学大学院
教育学研究科
藤村達也 氏
このたびは第54回倉田奨励金に採択いただき心より御礼申し上げます。人文・社会科学研究部門の受領者を代表いたしまして、日立財団選考委員および関係の皆さまへのお礼の言葉を述べさせていただきます。
私は教育社会学や歴史社会学を専門とする研究者として民間教育産業が日本の教育システムにおいて果たしてきた役割や与えてきた影響について研究を行っています。採択いただいた研究では近年、学校教育でも積極的に取り上げられているEdTech、すなわち教育におけるテクノロジーの利用に着目しました。
文部科学省は近年、全国の小中学校において児童・生徒が1人1台の端末を所有し、高速大容量の通信ネットワークを整備するGIGAスクール構想を進めてきました。特に2020年以降は新型コロナウイルス感染症の流行によりEdTechの利用は学習保障のインフラとしても扱われるようになってきています。このようにEdTechは学校教育に普及しつつありますが、歴史的に見ると民間教育産業においてそれに大きく先行して最新のテクノロジーを学習指導に積極的に導入してきました。このような民間教育産業におけるEdTechの利用がいかなる歴史的な文脈に位置付けられ、またこれからの学習文化にどのような変容をもたらしうるのか。こうしたことを社会学のみならずメディア論や哲学も含めた学際的な視点から検討していくことで、新しい技術が教育の領域において導入されることが持つ意味や影響について多角的に明らかにしたいと考えております。
EdTechも民間教育産業も英語圏では非常に注目されている研究テーマなのですが、日本では社会科学における研究テーマとしてはまだ萌芽(ほうが)段階にあります。また、学習文化や歴史的な視点を重視する研究は国際的にもまだほとんど見られないものだと考えています。こうした新しいテーマかつ越境的な手法による研究計画を評価していただき、また支援を行っていただけることは研究を遂行する上でも実際的なサポートになるだけでなく、先の見えない研究においてフロンティアを切り開くことをめざす上でとても心強く思います。
また、倉田奨励金についてほかの民間財団等による研究助成と比べて非常にユニークだと感じた点が申請書に研究の目的や計画等と並んで申請者が描くあるべき社会像という項目があることです。私はそこで科学技術の利用においていわば車のアクセルとなるような方法論や技術論的側面とともに、その技術を用いてめざす場所や道のりを示す地図や、時には予期せぬ望ましくない結果をもたらしうる場合にブレーキとして人文学や社会科学の知見が自然科学の知見とともに調和的に用いられる社会像について述べました。このような項目が申請書にあることに倉田奨励金の理念や人文・社会科学部門の研究助成が行われていることの意味が表れているように感じられました。科学技術を未来に礼賛するのではなく、しかしむやみに拒絶するのでもなく自然科学の知と人文学や社会科学の知が共同的に活用され、技術とそれを用いる人や社会のよりよい関係を築いていくために私たちの研究が小さくとも確かな一歩になることを願い研究に精進してまいります。
最後にあらためまして倉田奨励金に採択いただき、またこのようなあいさつの機会をいただきましたことに深く感謝申し上げます。日立財団のますますのご発展と関係者の皆さまのご多幸をお祈りいたしまして私からのあいさつといたします。
贈呈式に続いて、同会場にて研究期間を終えた受領者による研究報告会を開催し、代表者4名に研究成果を発表いただきました。
贈呈式・研究報告会閉会後は会場を移し、和やかな雰囲気の中、情報交換など交流を深めていました。この交流が皆様の研究の更なる発展につながることを願っています。
発表1:エネルギー・環境分野
奨励金No.1431(研究報告書)(PDF形式、483kバイト) |
発表2:都市・交通分野
奨励金No.1399(研究報告書)(PDF形式、649kバイト) |
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発表3:健康・医療分野
奨励金No.1413(研究報告書)(PDF形式、846kバイト) |
発表4:人文・社会科学研究部門
奨励金No.1473(研究報告書)(PDF形式、1,565kバイト) |
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