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創刊企画
日立財団

特別メッセージ 03

社会課題の解決には、まず正しい情報から。
「みらい」にはその発信を期待します。

桐桐蔭横浜大学 法学部法律学科教授・副学長

河合 幹雄

法社会学者から見ると、インターネット情報は実は正しいものが少ないです。

 Webでの情報発信というのは非常に有効な手段であると思っています。その情報を知りたい人にとっては、インターネット環境があればすぐに情報を入手できますし、情報を発信する方にとっては、時間や紙面の制約を受けずに自由に情報を伝えることができます。そうした意味で、Webマガジン「みらい」は情報伝達の有効なメディアになりえるといえます。一方で法社会学者の立場から見ると、ネット上で公開されている情報には実は正しいものが少ないのです。私が教えている大学で学生にレポートの課題を出すと、最近はどの学生もネットで情報を調べて書いてきます。そしてその内容の大半が間違っています。なぜなら、ネット上で公開されている情報の中で、特に法律や医学関連では、正しい情報が見当たらないというのが現状だからです。犯罪を例にとって言いますと、特に少年犯罪の場合は悲惨なことが公表できないために、事件の核心が分からなくなっています。一方的な報道や個人の印象でおかしなイメージがネット上で増幅されるので、社会一般の人の少年犯罪に対する意識は実像とかなりかけ離れたものになりがちです。性犯罪は特にひどく、犯罪者の実像と、人々が想像している性犯罪者像に重なる部分がないほどズレているのです。これでは、犯罪の正しい理解や認識につながらず、よって効果的な対策も講ずることができません。
 事実と認識の大きなズレを検証してみるために、2014年に「この10年間で凶悪事件は増えているか、減っているか」というアンケートを実施したことがあります。千人以上に五択の質問したところ正解者はたった一人でした。正解は「大きく減っている」ですが、大多数が「大きく増えている」か「増えている」と答えたのです。重大な事件ほど大々的に報道されたり、テレビやネットなどで繰り返し扱われたりするため、犯罪が増えているというイメージが定着しているのだと思いますが、実際はその逆なのです。「犯罪が増えている」と回答した人たちに共通しているのは 支持政党や性別、年齢などに特に関係はなく、「小さなマナー違反にイライラする」ということでした。そういう何となくはっきりしない不満や不安が増して、安心感を失っている人が多くなっており、現実は減っている犯罪に関して増えているというイメージをもっている訳です。だからこそ、ネット上ではきちんとした正しい情報を発信する必要があります。
 そうした意味で「みらい」には、Webの特性を活かしながら、ぜひ正しい情報を提供して頂きたいと思っています。

課題を解決した実例こそ、多くの人に必要な情報ではないでしょうか。

 ではどのような情報を発信すべきか。私の研究分野である犯罪を例にとると、ストーカーやDVといった最近の犯罪の原因や核心を正しく伝えることはもちろん大切ですが、被害にあう方がいる一方で、上手に回避している方も大勢いるはずなのです。私はそういうストーキングや暴力を上手に回避したという実例こそ提供した方が良いと思っています。「ストーカー問題への対応」などと大上段に構えるのではなく、「付き合っている人とどうやって上手に別れるか」といったことを考えたり実例を紹介したりすることも、立派なストーカー対策になりえます。しかもその方が多くの人の役に立つのではないでしょうか。重大な問題に発展する前に、いかに未然にそれを防ぐか。そういった視点やアプローチも「みらい」に期待しています。

過去の資産も大切にしながら、次に進んでいってほしい。

 少年犯罪に関して、日本では厳罰化を望む声が増えています。しかし、その一方で少年を更生させたいという意識も非常に高く、厳罰派よりも多いほどです。内閣府が「今、あなたに余裕があれば、非行少年を支援しますか」というアンケートを実施しましたが、過去も現在も、日本人の過半数が「はい」と回答しています。日本はすごい国だと思います。
 こうした更生への意識醸成に、過去の日立みらい財団が発行していた冊子「犯罪と非行」は役立っていたと思います。従って、こうした過去の資産も大切にしながら、新たに生まれ変わるWebマガジン「みらい」でも、より良い社会に向けての展望や解決策を呈示し、人々に未来への夢を感じさせる内容にしてほしいと思います。そうすることで、犯罪対策を含む社会課題解決への一助になってくれることを期待しています。

河合 幹雄氏

桐蔭横浜大学 法学部法律学科教授・副学長
京都大学で理学部を卒業後、文学部で社会学を学び、法学部大学院で法社会学を専攻。パリ第二大学留学、京都大学法学部助手を経て現職。法社会学者として「社会統制と法」「個人主義と法」をテーマに研究に取り組む。警察や刑務所などをテーマとした各種調査やフィールドワークも多数。著書に「安全神話崩壊のパラドックス―治安の法社会学」(岩波書店)、「日本の殺人」(ちくま新書)、「体制改革としての司法改革―日本型意思決定システムの構造転換と司法の役割(信山社出版/共著)、翻訳に「司法が活躍する民主主義―司法介入の急増とフランス国家のゆくえ/アントワーヌ ガラポン著(勁草書房)」など。

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