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創刊企画
日立財団

特別メッセージ 02

みんなが生きやすい社会を考えるには、
弱者の視点こそ必要です。

共同通信社 社会部 次長

山脇 絵里子

「悩める現代社会の知恵袋」になってほしいですね。

 社会部記者の仕事は「立場の弱い人たちに光を当てて、その声に耳を傾け、多くの人に伝えること」だと感じます。通信社の社会部に身を置き、子どもや女性、特にストーカーやDV(ドメスティックバイオレンス)の問題に長年取り組んできました。今回創刊されるWebマガジン「みらい」は社会的弱者に焦点を当てるそうなので、その方向性に大いに期待しています。
 現代社会は、人と人、地域のつながりが希薄になる一方で、インターネットやSNSを通じて個人の情報があっという間に拡散してしまう難しい時代です。家族内や男女間の問題も当事者だけではなかなか解決できず、社会による解決が求められています。私たちが通信社から配信する記事は速報性が強みですが、そうした社会課題を多様な視点から深掘りし、一つの媒体にまとめられるのは雑誌の強み。その意味で、「みらい」は、「悩める現代社会の知恵袋」のような存在になってほしいと思います。今の時代、疑問や課題を感じると、多くの人はWebを検索します。そういう時に「みらい」にたどり着いて、いろいろなことが分かって、さらにさまざまな立場の方からの多角的な提言や、解決のヒントまで見つかる、関連する文献が読めるということになればとても意義深いと思います。そのためにも幅広いテーマを取り上げてほしいですね。

急増する外国人住民と共生するための課題も取り上げてほしいテーマです。

 人口減少が進む日本では今、労働力を補う形で外国人労働者が急増しています。共同通信は2016年春から「あすの日本 外国人との共生」というテーマでキャンペーン記事を配信してきましたが、私たちの取材では、日本で働く外国人は100万人に達する時代を迎えました。中国やベトナム、フィリピンといったアジア諸国から多く来日し、都会よりも、むしろ人手不足が深刻な地方で農業や製造業、建設業などの担い手になっています。一方で、多様な文化を持つ外国人住民が増えれば、それに伴う社会課題も発生します。「みらい」には、そうした外国人との共生の課題にも目を向けていただきたいと思います。
 一つの例として、学校の多言語化があります。ベトナム語やタイ語、中国語などしか話せない外国籍の児童生徒が、どの小中学校にも数人ずついる。そんな風景が日本中で珍しくなくなっています。そうした子どもたちを言葉の面や精神面でサポートし、十分な教育の機会をどのように保障するか。現場の先生がたは苦悩していますし、これはその子の未来とともに、10年後、20年後の日本社会を左右する重要な課題です。例えば日本が誇る日立グループをはじめとした最新の技術でITやタブレット端末を活用し、母国語での教育支援を農村や漁村でも展開できれば、子どもたちに大きな助けになるでしょう。これは「みらい」の地域コミュニティ支援の一環として注目していただきたいテーマです。

高齢化社会は誰もが弱者になる。だからこそ弱者の視点を。

 日立財団のシンポジウムでも扱っている高齢化社会の問題も見過ごせません。
 私たちは皆、歳を重ね、高齢者になります。そう考えると誰もが社会的弱者になるわけです。2009年に取材した韓国では、「女性省」(現在の女性家族省)という、女性の地位向上と男女共同参画を専門に取り組む省庁がありましたが、それは女性のためだけにあるのではありません。男性中心の政治・行政を見直して、「女性が暮らしやすい国は男性も暮らしやすいはず」という考え方に基づいてさまざまな施策を進めているのが印象的でした。
 弱者にまなざしを向け、寄り添い、共に考えることは、つまりみんなが生きやすい、生活しやすい社会をつくることにつながります。そういう視点を「みらい」も持っていただけたらうれしく思います。

山脇 絵里子氏

一般社団法人 共同通信社 編集局 社会部 次長
1992年、共同通信社入社。社会部に所属し、厚生労働省などを担当。医療、福祉、女性に関する報道に携わる。特にストーカー問題はライフワークとして20年以上、事件の被害者や遺族に取材を続け、ストーカー規制法の制定・改正を訴えてきた。現在はDVや性暴力、2020年東京五輪・パラリンピックを含むスポーツ関連の取材も幅広く展開している。著書に「ストーカー 被害に悩むあなたにできること リスクと法的対処(日本加除出版/共著)」「いのちの砂時計 終末期医療はいま(共著/日本評論社)」等。ジェンダー法学会会員。

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