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日立財団

特別インタビュー

若い世代の少子化対策

最近は、パパを“イクメン洗脳”する女性も

田中:日本の現状はどうでしょうか。少子化対策や冒頭のパパのゾンビ化などに関して、いま若い人はどのように考えているのでしょう。

白河:パパのゾンビ化を防ぐいちばんの方法は、男性に育児を体験してもらうしかないです。多くの企業さんで行われていることとして、5日間程度の育児休業があります。普通の育児休業ではなく、有給としてしまう。それで、休暇を取ってくださいと奨励したり。そこでの育児体験が5日で終わってしまう人がいるかもしれませんが、だんだんと多くの人が取るようになると、その中から本当にやる人も出てきますよね。そうなると、男性の育児休暇に対する風当たりのようなものがなくなってくる。逆に休暇を取らないと評価が下がるようなことになってくると、みんな取るようになります。あとは教育ですね。

田中:教育とは、会社に入る前の教育ですか。

白河:そうですね。それもありますし、大学でも「産むと働くの授業」をしています。最近では「逃げ恥にみる結婚の経済学」という本をエコノミストのかたと書きまして、それを題材にして近頃は女性の時給が高くなっていて、そうなると、そのお金を外で稼ぐほうが経済的に合理性が出てくのです。計算すると、年収600万円未満の夫は専業主婦の妻に「好きの搾取をしている」、つまり「愛情があるんだったら無料でいいよね」ということになります。家事・育児は無償労働といわれていますけど、それが実は経済価値がすごく高いのです。学生は男女ともに数字の話が好きで、この授業をするとみんな「やっぱり共働きなんだ」と納得しています。共働きは、いまのように情勢が不安定で、変化が激しい時代のリスクヘッジでもあって、そして一人よりも二人のほうがスケールメリットが活かせます。だからあまり男女の役割にとらわれないで、二人で働いて、だけど二人が全く同等にやる必要はなくて、夫婦おたがいが納得するスタイルで暮らしていけばいいんだと。そういう話をすると、男子も「やっぱり共働きだな」といった感じなってきます。「そしたら僕も家事・育児をやらないといけない」と納得していきます。いちばん単純なのは、「奥さんに頑張って働いてもらうことを応援すると生涯賃金、約2億円分は違うよ」と言うと、男子は目の色が変わりますね。

インタビュー

田中:その納得から、家事の必要性まで男子は意識が回っていくものなのでしょうか。

白河:最近は女子が強くなって、男子はよく「彼女に(家事することを)迫られる」「詰め寄られる」みたいな言い方をしています。女性から厳しく言われるのでやるみたいな感じですね。

田中:彼女や奥さんから指導されているみたいな感じですか。

白河:最近の女子はもっと厳しいです(笑)。理詰めできますから。昔は彼氏や夫を褒めて動かすようなことをしていましたが、今は男女平等が当たり前と思って育っているので、私が見ていても厳しいなと思いますよ。私が教えた中で印象的なカップルがいまして、彼女が彼氏をイクメンになるように洗脳したのです。

田中:本当ですか!?

白河:彼女の方は、早くに子供が欲しいとずっと思っていたけど、若い頃はお金がないから無理だなと思っていたそうです。でも私の授業を聞いて、共働きなら暮らしていけると気付いて、じゃあ二人で働こうと。彼氏がいたので早く結婚して、共働きして早く子供も持ちたいと目標を持っていました。彼は家事・育児をやってくれるタイプだったのかというとそうではなく、それでどうしたのと聞いたら、彼氏をファザーリング・ジャパン※1のようなイクメンの団体に送り込んで、イベントなどの手伝いなどをさせたそうです。そこで、育休を取ることや、育児や家事をする男性はカッコいい、というモデルをたくさん見せたわけです。そしたら彼氏もすっかりその気になって、ガラッと変わった。これもすごい少子化対策ですよね。最近の若い人はここまでやるんだと、私にとってもすごく勉強になりました。

インタビュー

田中:若い時から子供が欲しいというのは、考え方が変わってきていますね。

白河:不確実な時代なので、「とりあえずやれることは先にやっていこう」といった感じでしょうか。早婚思考とかも、「なるべく人生の不確定要素を減らしていきたい」ということでしょうね。

田中:女性の立場が強くなっているのは事実ですね。出産後、奥さんの方が仕事を休めない場合は、いまは育休を取らなくても在宅勤務で対応できるので、旦那さんが在宅勤務に切り替えて育児と仕事をこなす家庭が増えてますよね。奥さんが仕事を取って旦那さんが在宅勤務、そういうスタイル、いまはそれほど多くないですが、5年ぐらいすると普通になってきそうですね。

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白河:そうかもしれませんね。

田中:商品の普及と同じで、ある値を超えると急激に広まっていったりしそうです。

白河:ある値を超えると、それが当たり前になる。そういうことってよくありますよね。夫婦のスタイルも同じかもしれません。その変化に合わせて国や企業の制度も変わっていくので、やはり数の力は大きいでしょうね。

※1 ファザーリング・ジャパン:「Fathering=父親であることを楽しもう」という意識の理解や浸透のために各種の父親支援事業を展開している特定非営利活動法人(NPO法人)。

少子化とSDGs

少子化対策は、SDGsにつながっています

田中:白河さんは、SDGsバッチをつけていらっしゃいますが、今、持続可能な開発目標をCSR戦略に組込んでいる先進企業が増えていますが、少子化問題はどの項目に該当するのでしょうか。

白河:「持続可能な社会」に該当します。証券業協会がいまSDGsを展開していまして、私はその委員を担当しています。一年前くらいですと、このバッジをしていても誰も反応してくれなかったのですが、ご存じのかたがだいぶ増えてきましたよね。

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田中:白河先生は、どのような活動をされていらっしゃるのですか。

白河:SDGsで策定されている17の国際目標の中で、例えば子供の貧困ですとか、女性のジェンダー平等といった項目は、全部少子化の対策にもなり得ますよね。証券業協会ではいま、困難なご家庭の子どもの教育等に取り組もうとしています。日本の場合、子どもに教育を受けさせようとしたら、その費用を親が無理して払うというパターンが多いです。そこで格差がどうしても出てしまう。フランスのように「産んでもなんとかなる」という安心感を社会に醸成していくのが、国や企業がやれることだと思いますね。

田中:SDGsは持続可能な社会を作ることですから、少子化対策はSDGsの目標にもかなうということですね。

白河:子どもが一人も生まれなくなったら持続できないですものね。ジェンダー平等とかまさにそこにも関わってきていますし。あとは投資もこの方面に向かってきています。いわゆる「ESG投資※2」ですね。いまはこうした観点から中期経営計画を立てることを多くの企業でやられているので、そういうふうに本業として取り組んでくださるのがいちばん良いことだと思います。

※2 ESG投資:環境(environment)、社会(social)、企業統治(governance)に配慮している企業を選別して行う投資。

インタビュー

白河 桃子氏(しらかわ とうこ)

少子化ジャーナリスト/作家/相模女子大学客員教授/内閣官房「働き方改革実現会議」有識者議員/内閣官房「一億総活躍国民会議」民間議員/ 内閣官房まちひとしごと地方創生本部「地域働き方改革支援チーム」委員/内閣官房「霞が関の働き方改革懇談会」委員/内閣府男女局「男女共同参画会議 重点方針専門調査会」委員/内閣官房まちひとしごと地方創生本部「地域少子化対策検証プロジェクト」委員/内閣府「新たな少子化社会対策大綱策定のための検討会」委員

慶応義塾大学文学部社会学専攻卒。住友商事、リーマンブラザースなどを経てジャーナリスト、作家に。2008年中央大学教授山田昌弘氏と「婚活時代」を上梓、婚活ブームの火付け役に。仕事、出産、両立など女性のライフキャリア、少子化、働き方改革、女性活躍、ワークライフバランス、ダイバーシティなどがテーマ。大学生、高校生、若手社会人のために仕事、結婚、出産の切れ目ないライフプランニングを提唱し、出張授業多数。講演、テレビ出演は「情熱大陸」「バンキシャ!」「ワイドスクランブル」など多数。
山田昌弘・中央大学教授と提唱した『婚活』という言葉が2018年1月発売の「広辞苑 第7版」に掲載される。サンデー毎日「本のある日々」連載中。

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