パイオニアトーク Vol.1

研究の現場

女性であれ男性であれ、研究の場ではジェンダー的な
問題は少なくなってきていると思います。

荒木: 理工系はどちらかというと、研究室に閉じこもって難しいことをしているというイメージがあると思うんですけれども、そこはご自身のご経験からいかがでしょうか。

大島: おっしゃるように、理工系というと実験室に籠って、自分と戦いながら、ひたすら鍛錬していくイメージがあるかと思います。しかし、必ずしもそうではないですね。工学部ですと、実験やシミュレーション技術を習得してから、研究分野にて新しい展開を試みるため、いろいろな人から学ばないといけません。そのため、最近はチームで取り組む傾向がありますね。私も最初は「孤独」なイメージがあったのですが、実際に研究室に入って研究し始めるとそうではなかったです。研究者の人たちはけっこう性格が明るいですし、世間でよく言われるマイナスのイメージを払拭したいと思います。

荒木: おっしゃるようにチームでやるという研究者もいますが、その一方で、自分の専門を極めるという研究者もいると思います。それから工学系は特に世の中のためにということを意識しながらやっていくところがあると思いますが、そこはいかがでしょう。

大島: これまでは、科学技術が先に発展し、社会へと影響を与えてといくという形だったと思います、しかし、今はその関係はさらに密接になり、科学技術も社会のニーズを受けながら変わっていき、その距離感や時間の間隔は非常に短くなってきています。もちろん専門を極めることも大事ですが、専門や自分の持っている知見がどのように社会に役立つのか、といったニーズをある程度把握しないと、いくら優れた知見や研究成果を持っていても社会になかなか受け入れてもらえない状況になっていますよね。そのようなこともあり、さまざまな分野の専門家と組むといった、いわゆる学際的になっていると思います。その点で、コミュニケーション能力が必要になってきていると思います。目標は同じでも、考えているアウトカムが異なったり、同じことを言っていても専門用語が微妙に違ったり、専門用語が一緒でも突き詰めると違うことを意味していたりとか、いわゆる異文化、異分野コミュニケーションですね。そうした相違点をお互いに理解し、ときほぐしながら、目標は一緒だからともに頑張りましょうね、といったスタイルが、研究もそうですし、企業の働く環境にもなっていくと考えられます。そのため、研究者にも男女差が昔と比較して少なくなっているように思います。昔の工学系ですと、実験にどうしても24時間付きっきりなるなど、体力勝負というところがありましたが、ITなどの発展で必ずしもそうしなくて良い環境になってきています。進化したテクノロジーを使うことで、次のいろいろなステップに踏み出せるので、女性が不利と思われていた体力的な部分などは、今は問題ではなくなってきていますね。どちらかというと、コミュニケーション力など、比較的新しい能力も問われてきているとは思うので、女性であれ、男性であれ、ジェンダー的な問題は少なくなってきているのではないでしょうか。

大島まりさん

荒木: 確かにどんな仕事でも男性と女性、あるいは個人によって得意、不得意があるかと思うんですが、あえて言えば女性はコミュニケーションが男性よりは比較的上手な人が多いと言われていますよね。今のお話を聞いていると工学系でも女性のそういった特質が活かせそうですね。

大島: そうだと思いますね。また、科学技術というとよく理系だけの分野と思われがちですが、最近は例えばデザインであったり、法律や経済であったりと、いわゆる芸術や文科系と言われている人達ともに一緒に取り組むことが多くなっています。文科系・理系の枠組みもだんだん壁が低くなっているので、今まで女性は文科系に適しているとよく言われていましたが、文科系に関わっている女性でも、自分の専門で科学技術に関われることがあるので、理科系じゃないと科学技術の現場や研究分野に携われないということは無くなってきていると思います。

荒木: さまざまな分野の人たちが集まらないと、なかなか解決できないような課題が多くなっていますよね。

大島: そうですね。社会が多様化していますから、そのような多様性に対応するためにも、研究者も多様性を持つ必要がありますが、それも限界があるでしょう。そこで、専門分野の方と組んで、それぞれの専門領域を活かしながら連携していくのが非常に良いのではないかなと思います。