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2023年度 第55回倉田奨励金贈呈式・研究報告会開催

2023年度 第55回倉田奨励金贈呈式

2024年3月4日(月)、京王プラザホテル東京において、2023年度(第55回)倉田奨励金贈呈式を開催しました。今年度は全国より279件の応募があり、厳正な審査により決定した43名の研究者に対して研究助成金を贈呈しました。

2023年度 第55回倉田奨励金贈呈式の様子

贈呈式では冒頭、理事長の内藤理から本事業への皆様からのご指導、ご支援に対する感謝の言葉が述べられ、続いて花木啓祐選考委員長から選考経過の報告がありました。続いて受領テーマの紹介とともに受領者一人一人に理事長から贈呈書をお渡しし、各部門・分野の代表者4名から今後の抱負などをスピーチいただきました。
今年度受領者43名の研究テーマは下記をご覧ください。

倉田奨励金 受領者件数
自然科学・工学研究部門 エネルギー・環境分野10件
都市・交通分野4件
健康・医療分野17件
31件
人文・社会科学研究部門 12件
43件

  • 日立財団 内藤理事長

  • 倉田奨励金 花木選考委員長

  • 研究助成金の贈呈

受領者代表挨拶

自然科学・工学研究部門

エネルギー・環境分野

東京農工大学
 久保若菜 氏

久保若菜 氏

倉田奨励金に採択いただきましたこと、受領者を代表して御礼申し上げます。
私は、今まさに皆様の前にある、この空気からエネルギーを創り出そうという研究をしています。空気には熱エネルギーがありますが、我々の技術はそのエネルギーの分布を人工的に変えて電気に変換するという研究を行っており、これは世界で初めて提案した研究です。
未だに論文の審査員の半数からは、これだけデータを示してもそんなことはありえないと言われる中で、なかなか予算が取れないという事情もあり、そのため今回の助成金をいただくことがどれだけ嬉しいことか、このエピソードからおわかりいただけるのではないかと思います。

そして本日は皆様に是非お願いしたいことがあります。我々PhDホルダーである研究者は助成金をもらって嬉しい、それだけではありません。むしろ大きな責任を感じ、国際研究開発、そして社会実装、基礎研究の進展、そういったものに身を粉にして働いて、歯車のひとつではありますけれども、何とか日本の科学技術の進展の一旦を担う、そういった気持ちで日々研究をしております。一方で、公費はどんどん減少し、業務はどんどん増えていく、そういった中で予算のことを心配しながら、そして日本の国力が落ちていく中で、どうやって我々は日本の発展に寄与するのであろうと、日々悩みながら研究をしているわけであります。
これからも、こういったひとりひとりの研究者のことを応援するお気持ちで、どうか、我々研究者の支援、そして日本の科学技術の発展にご理解いただき、また日本の経済、政治といったものにもそのお気持ちを反映していただきますよう心からお願いしたいと思います。あらためましてこの度は、本助成金に選出いただきましてありがとうございました。

都市・交通分野

東京大学
 矢澤大志 氏

矢澤大志 氏

この度は倉田奨励金に採択いただき大変光栄に存じます。本研究はマレーシアがフィールドとなっており、何度も現地の研究者と打合せを行ってきましたので、その研究者の皆様にも大変感謝いたします。
本研究は、プランテーションと言われるマレーシアの油ヤシ農園の水循環、特に頻発する浸水や洪水に着目して、農園の管理方法を検討するものです。
皆様にはおそらく昨夜や今朝、シャンプーをしたりお化粧をされたり、朝食のパンにマーガリンを塗ったりお菓子を食べたりされたと思います。実はそれらのすべてにパーム油が含まれており、日本はそのほぼすべてを、特にマレーシア、インドネシアから輸入しています。

一方、マレーシアやインドネシアといった現場では、パーム油の生産のための野焼きによる大気汚染、肥料による水質汚濁、また水はけの悪さによる洪水被害などが起こっています。これはもはやマレーシアの環境問題というわけではなく、日本を始めパーム油を輸入しているあらゆる国の利害関係者が、環境汚染に加担しているという、社会的な課題であると考えられます。
そこで本研究では、経験的に管理や生産がなされていた農園の、その経験則が本当に正しいのか、というのを現場の実測調査で明らかににしていきます。また科学的に良い側面だけでなく、現場で文化的、また金銭的に受け入れられる管理であるかということを確かめるために、現場での会話を重要視し、住民と一緒に調査研究を行っていきます。
こういった観点でより良い管理方法を検討することは、現存の油ヤシ農園の有効活用や生産性の向上にもつながるため、国際貿易の観点から意義のあることであると考えています。
フィールド調査は比較的効率が悪く、なかなか論文になり難いといったことや、この数年は海外調査を行えない期間もありましたが、現場でひとりでも多くの人とコミュニケーションを取り、現場の環境問題を解決できるよう精進してまいります。
今後とも、皆様のあたたかいご支援とご指導を賜りますようよろしくお願い申し上げます。ありがとうございました。

健康・医療分野

奈良県立医科大学
 中澤 務 氏

中澤 務 氏

倉田奨励金に採択いただきましたこと、日立財団理事長選考委員の皆様、関係者の皆様に感謝申し上げます。
私は現在、悪性脳腫瘍のひとつである、膠芽腫に対する新しい治療法の開発に取り組んでいます。がん治療は、標準治療である手術、放射線療法、化学療法を中心に、その治療効果は目覚ましく向上してまいりました。しかしながら膠芽腫は、標準治療を施したとしても診断後の生存期間中央値は約1年8カ月と極めて悪性度の高いがんです。
最近ではノーベル賞でも話題となった免疫チェックポイント抗体やCar-t細胞といった免疫治療が標準治療に加わり、多くのがんで治療効果を向上させました。しかし残念ながら膠芽腫では免疫治療による治療効果の改善は認められていません。

その原因としてこれまでの免疫治療がT細胞という免疫細胞をターゲットとしていることが考えられ、私たちはT細胞とは異なる免疫細胞であるナチュラルキラー細胞(NK細胞)に着目し研究を行っています。
NK細胞を身体の外に取り出して活性化、培養し治療に用いる手法は陽子免疫療法と言われ、米国の研究グループが40年以上前から検証を行ってまいりました。
しかしながらT細胞の培養が容易であったこととは対照的にNK細胞の培養は非常に難しく、臨床試験も進んでいませんでした。それでもかれらはあらゆる可能性をもつ細胞が今後生まれてくるという信念のもと、デザイナー細胞という概念をもってその可能性を未来に委ねました。
その後私たちを含め多くの研究者の継続的な努力によりNK細胞の培養技術は飛躍的に向上し、現在NK細胞を用いた臨床試験が世界中で活発に行われている次第です。私たちは、この膠芽腫に対してゲノム編集技術を用いてNK細胞の能力を更に高め、デザイナーNK細胞を作るフロントランナーとして研究を行っています。
NK細胞の機能を調整する遺伝子は数多く報告されており、ひとつずつその機能を調節し広く網羅的に細胞の性質を分析し、最適な遺伝子の候補を選別するという大変地道な作業となりますが最終的には膠芽腫の治療に適したデザイナーNK細胞が作れるものと確信しております。 人数、予算も限られた中で先進的な研究を続けることは簡単ではありませんが、まずは今回の奨励金に採択いただき研究を継続させていただけること有難く思っております。さて、私たちが行っている研究も含め健康・医療分野の研究は、総じて人の命の大切さを学ぶ学問領域です。たとえどのような難しい病気であったとしても諦めることなく、限りある人生をできるだけ長くできるだけ幸せに過ごせるよう、新しい技術、新しい価値観を社会に提案し続ける役割を私たちは担っています。そのような中で日立財団におかれましては、長年にわたり多岐に渡る研究に支援いただいていることは私たちにとって励みになります。ありがとうございました。

人文・社会科学研究部門

大阪大学
 石黒 暢 氏

石黒 暢 氏

この度は第55回倉田奨励金に採択いただき誠にありがとうございます。
今回採択いただきました研究内容は人間とテクノロジーが調和する、持続可能な介護システムを探求するというものです。
日本では高齢化が進んでおり、介護ではロボットなどのテクノロジーを活用することが打ち出されていますが、現実には介護ロボットが効果的に現場で活用されている例は多くありません。
高度なロボット技術を持つ日本において、介護ロボットがうまく機能していないことは大変残念であると考えています。
その背景には多くの要因があります。
介護ロボットは介護人財不足解消の切り札として強調されることが非常に多くあります。確かに介護労働負担を軽減しますので人材不足の切り札にもなりえるかもしれません。

ただ人間とテクノロジーが人と人との間のケアという営みの中で、どのように調和と共生を図っていくのか、また、人間の生活の質を向上させることができるのかという部分に関しては、まだまだ議論が尽くされていないと考えています。科学技術を包括した、総合的なケアのビジョンもまだ社会に示されていないのが現状です。
また日本の人文学や社会福祉学の学会におきまして、介護ロボットやテクノロジーを真正面から取り扱うような研究がまだまだ発展途上であるというように考えています。
そのような中で本助成金は科学技術と人間の生活の質との関係を探求するような人文・社会科学研究に助成してくださるものですので私たち研究者にとって、大変ありがたく心強いものであると感じております。
この現実の矛盾を乗り越えて持続可能な介護システムを探求するために、テクノロジーをケアという視点から導入するような政策的アプローチや実践的なアプローチが必要であるというのが本研究の立場です。
具体的な研究方法として本研究では介護テクノロジーが実践現場で広く普及している北欧のデンマークを取り上げ、調査を進めます。介護における人間とテクノロジーの調和、これがどのような制度、枠組みの中で介護実践に落としこまれているのか、これを調査し、デンマークで得られた知見が、日本の今後の持続可能な介護システム構築にどのように活かせるのか、そういった提言に繋がる研究を進めていきたいと考えています。ありがとうございました。

倉田奨励金 研究報告会

贈呈式に続いて、同会場にて研究期間を終えた受領者による研究報告会を開催し、代表者4名に研究成果を発表いただきました。
贈呈式・研究報告会閉会後は会場を移し、和やかな雰囲気の中、情報交換など交流を深めていました。この交流が皆様の研究の更なる発展につながることを願っています。

倉田奨励金 研究報告会 発表1〜4
望月 泰英 氏 高畠 知行 氏
発表1:エネルギー・環境分野

奨励金No.1488(研究報告書)(PDF形式、2Mバイト)
地球上に豊富な元素で構成される負熱膨張材料の機構解析と実験実証
東京工業大学 望月 泰英 氏

発表2:都市・交通分野

奨励金No.1494(研究報告書)(PDF形式、2Mバイト)
道路閉塞が地震・津波の人的被害に及ぼす影響の解明
近畿大学 高畠 知行 氏

北條 宏徳 氏 奥乃 真弓 氏
発表3:健康・医療分野

奨励金No.1514(研究報告書)(PDF形式、655kバイト)
ゲノム編集法と一細胞RNA-seq 解析を融合した疾患関連SNPスクリーニング法の開発
東京大学 北條 宏徳 氏

発表4:人文・社会科学研究部門

奨励金No.1467(研究報告書)(PDF形式、917kバイト)
信頼されるA(I trusted AI)に関する信認関係の継続的な構築における法的課題の研究
東洋大学 奥乃 真弓 氏


懇親会 倉田奨励金選考委員 長棟輝行氏 乾杯のご発声


懇親会 会場の様子

お問い合わせ

公益財団法人 日立財団「倉田奨励金」事務局
〒100-8220 東京都千代田区丸の内1-6-1
電話 03-5221-6677

E-mail:kurata@hdq.hitachi.co.jp