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創刊企画
日立財団

この勉強をしたらどんな未来が開けるのか、
これまでの理数系では説明が足りなかったように思います
(守山)

インタビュー

守山:これまでの中学、高校の理数系の教育は、例えば微分とか積分とか数式の答えを求めるばかりで、微分・積分をやって何ができるんだということはあまり説明していなかったと思います。この勉強をやっていると社会に出たら何ができるのかという説明がないと数学も理科も面白くならないと思うんですね。そういう点で、従来の理数系の教科学習はあまり親切ではなかったような気がしています。

田中:確かに僕は理科系なのでおっしゃるような視点は抜けていたかもしれないですね。どちらかというと我々が取り組んでいるのは、まず学生に理科に興味を持ってもらうことなのですが、それがどういうふうに世の中に役立っているというのをさらに加えるといいかもしれませんね。シンポジウムでご登場頂くのは社会に出た人ですので、この勉強が将来どんな仕事に繋がるんだということも説明できるはずなので、そういう視点も取り入れたいですね。

守山:それから、いま我々の世界も学際的研究の時代になってきていて、文系・理系という境界領域が非常に広がってきているんですね。我々の犯罪学でも、いま理科系の研究者と組んで研究をする機会が非常に多くなっていますが、ちょっと気になる点があります。犯罪を減らさなければいけないという共通認識はあるのですが、理科系の人たちは犯罪を減らした後でどういう社会を作るのか、どういう社会を目指すのかというビジョンがいまひとつ無いのですね。この地域で発生しているこれだけの犯罪を減らすためにどうしたらいいかというテクニカルな課題解決には非常に熱心で、コンピュータを使ったりして技術的に上手に対応するのですが。今回の日立財団の改革はそういったことに対して、すごく明瞭なメッセージを出されているような気がします。

田中:確かに理科系の人は計算したりするのに熱心ですが、社会のあり方といったような視点をもちにくい傾向があるかもしれないですね。社会で働いている理工系の方々には夢を持っている方も確かにいらっしゃいますけど、文化系の方に比べると希薄かなという感じはしますね。ただ、先生がおっしゃるように理科系の中でもどんどん学問の融合というのは進んでいて、私は電気工学出身でいま電気学会の会長をやっているのですが、電気と機械あるいは電気と情報がますます融合して、今後IoT社会が進むと世の中にどういう影響を与えるか、どうすればいいのかという議論が理科系の人材だけでは上手く進まなくなるのではと思っています。先生がおっしゃるような方向にも力を入れていくべきだと思っています。

守山:私も今年初めて工学部で犯罪学の授業をやりました。工学部でもいまはコミュニティの問題を扱っているんですね。ですから本当に理系、文化系という壁を取っ払おう、境界を設けないようにしようと、大学自体にもそうした動きがあります。日立財団の活動も理系・文系さまざまな分野の知恵を集めながらやっていくのが良い方法ではないかと思っています。

豊かな生活、未来に希望が託せるようにしていきたい。
これからの「みらい」にご期待ください
(田中)

守山:「みらい」というタイトル、これは単にいまの時代や社会を見つめるだけではなくて将来を見越しながら問題を考えていこうという意味だと思います。財団としてあるいは理事長の個人的なお考えでもいいのですが、この「みらい」という言葉にはどういう思いが込められているのでしょうか。

田中:社会課題に対しての問題提起や啓発に留まらず、それに対する解決策や展望を示していきたいという思いが私や財団スタッフの中にあります。私たちを取り巻く環境は先程、課題先進国と申したように課題は山積しているわけですけれど、その中で特に社会の価値観や構造の変化が起きています。IoT時代にはさらに大きな変化が起きてくると思います。そうした変化の中で我々がいかに生きていけばいいのか、あるいは来たるべき未来にいまからどんな準備をすればいいのか、という事に対して、少しでもヒントになるような情報をこのWebマガジンを通してお伝えできればと考えています。そういう意味で「みらい」というネーミングにしました。

守山:今後、社会がさらに複雑化すると、例えば社会的格差が広がったり、最終的に企業にも影響が出たりすると思います。私の研究に関しても犯罪を減らすことを求めていますが、しかし犯罪が減っても、人々が幸せにならないと意味がないんですね。つまり犯罪が減ることが社会の平和の前提であり、幸せの前提であるということを考えるから犯罪を減らそうとしているわけなのです。ただ犯罪の減らし方もさまざまなかたちがあって、例えばガチガチに管理社会にすると犯罪は減るかもしれないけれど、果たして人々は幸せになるかという問題が起こるわけです。だから「みらい」では、最終的には人々がいかに平和に幸せになれるのかを問うていきたいと思っています。我々は、このような豊かで幸せの状態を「生活の質」が高いと表現するのですが、そういう生活の質を向上させる手段として犯罪学もあれば、電気工学もあるわけで、さらに企業もあれば政府もあります。分野も広がり非常に困難な作業になるかもしれませんが、そういった活動を続けていかないと社会の啓発はできません。やっていく必要は大いにあるだろうと思います。

守山:最後に、これから「みらい」の読者になられる皆さんにひとことお願いします。

田中:先生がおっしゃるように皆さんがより豊かな生活になることが大切です。そうなれば犯罪や他のさまざまな課題に対しても、それを取り除いてやることがより良い社会になっていくので、そういう将来に我々は期待を込めています。
過去に、例えば環境問題で日立環境財団を作り上げてそれがだんだん世の中に浸透していったように、我々のこういう未来を志向した活動がより広がっていって豊かな社会に繋がればと思っています。日立は未来を創る事業として社会イノベーション事業を標榜しています。ぜひそれをこの財団活動とあわせて、人々が未来に希望を託せるようにしていきたいと思います。新しい「みらい」のご愛読を、よろしくお願いします。

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