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日立財団 Webマガジン「みらい」VOL.3
社会を見つめるシンポジウム 少子化時代を生き抜くために
─ 子どもが幸せになる 子育て 孫育て ─
日立財団

講演録 2 「日本の子どもは幸せか
~海外の子ども関連施策の動向~

日本総合研究所 調査部
主任研究員
池本 美香

子どもを「増やす」ためでなく「幸せにする」ための海外の取り組み

ここからは海外の施策について見ていきたいと思います。海外の政策を眺めてみますと、単に子どもの数を増やすのではなくて、子ども自身が幸せになるという視点を入れた政策がとても多いことに気づきました。海外の施策で日本と違うところをご紹介します。

① 子どもオンブズマンの設置
まず海外には「子どもオンブズマン」という機関がほとんどの国で設置されています。1989年に国連で子どもの権利条約が採択され、加盟国では子どもの権利が守られているかをチェックする機関を置くことになっています。韓国でも2006年に子どもオンブズマンを設置していますが、日本では未対応です。日本の子どもは他の国よりは恵まれているので、そのような制度はいらないという考えがあったのかもしれません。しかし先ほど申し上げたように、子どもを取りまく状況が悪化していることを考えると、日本でも必要ではないかとも思います。
子どもの権利条約には、4つの権利が明記されています。生きる権利、守られる権利、育つ権利、参加する権利です。子どもの権利条約は日本も1994年に批准し、もう24年経っていますが、一般に浸透しているとはまだまだ言いがたい状況だといえます。

② 労働時間の短縮・柔軟化で保育時間を適正化
先ほどの4つの権利を守るために海外では具体的にどんなことがなされているか。例としてご紹介したい1つ目が、親たちの働く時間です。日本の保育園は、親の残業にも対応できるよう、夜間できるだけ遅くまで開けるべきという流れがあります。放課後児童クラブも18時半以降もやっている施設が増えましたと、政府はとても自慢していますが、海外は違います。オーストラリアでは、18時より遅くまでやっている保育所や放課後児童クラブは子どもにとってふさわしくないので、国としては認可していません。発想が全然違いますね。イギリスでは、夏休みは親も休暇を取るので学童保育は必要ないという家庭も多いです。子どもに合わせて親の働き方を調整しているわけですね。週50時間以上働いている人の割合が、日本や韓国は国際的に見て多いです。オランダやスウェーデンなどはほとんどいません。そのような国で出生率が増えているので、出生率の観点からも働き方を見直すことは重要でしょう。

病児保育に関してお話ししますと、私が海外に調査に行って延長保育、病児保育について聞くと、「病気のときは親が休めるようにしています」「なぜ病気のときに預かれる保育を求めているんですか?」とすごく不思議な顔をされてしまいました。「子どもが病気のときは親と一緒にいたいのでは」などと、逆に冷たい人だなという視線をたくさん海外で浴びてきました。日本だと、とにかく親が働くために子どもが病気のときも預けられる施設がないといけない、そんな思いにとらわれてしまっていますが、海外はそうではないわけです。日本でもそろそろ考え直す必要があると思います。

③ 保育の普遍化
日本では、保育園利用は親の就労が条件になっていますが、そういう国はほとんどないです。韓国でも10年前くらいに廃止しています。子どもには保育を受ける権利が1歳、2歳からあり、それが国際的な流れとなっています。3歳未満の保育園利用率は、ほとんどの国で上がっています。保育というのは親の就労支援ではなく、子どもが教育を受ける権利として保育があるということです。

④ 国の評価機関による評価受審と結果公表を保育施設・学校に義務化
教育の質を評価する機関を国が設け、全部の保育園や学校の質を評価して、その結果をすべて公表する仕組みが海外にはあります。イギリスではOfsted、ニュージーランドではEROという機関があります。
Ofstedの開示情報では、施設名や住所のほか、評価された時期と評価項目が見られ、4段階評価による結果も見られます。こうしたレポートがインターネットですべて公表されており、親たちはそれを見て保育園や学校選びをしています。施設の方も自分たちの評価が低いと、利用している親も含めて評価向上に努力したりします。優れた取り組みをしていると評価された施設はホームページでアピールしたり、評価の高い施設があると、全国的に公表されていますので、他の施設もその良い例から学び、自分たちの質の向上につなげることができる仕組みも素晴らしいと思います。

⑤ 保育者の質の確保
日本では、保育士の資格は一度取得してしまえば更新する必要はありません。ですが、海外では更新制を導入する国もあり、ニュージーランドでは3年ごとに再チェックされています。多くの国では、保育士、学校教員など子どもに関わる仕事に就く人については、採用時に警察の記録で犯罪歴などがチェックされています。
また、海外では保育士と小学校教員との賃金格差は日本ほどありません。どちらも教育機関の職員という考え方なのです。日本は小学校教員と保育士との給与格差が最も大きい国と紹介されており、保育者の賃金水準が低いことも課題といえます。

⑥ 保育・教育への親の参画の促進
海外では保育園などに対して、親の参画がすごく重要だと考えられています。親は、質の確保された保育の提供を受けるために、常に監視したり、意見を言ったりしています。親は、保育の参加者として関わることで保育の質を高めようという考えもあり、そこが日本と違う点です。親が運営する保育園は海外には結構あり、それを行政も認可して支援しています。質の高い保育が欲しい親たちが理想とする環境を自分たちで作り、それは確かに質が上がると政府が認め、支援しているという図式です。ニュージーランドでは、先生を雇わずに自分たちが勉強して先生役もやってしまうという究極の親保育園の例もあります。そういった保育園が各国で運営されています。

親と先生とで保育園のあり方を話し合う運営委員会の設置を義務化している国もあります。韓国も2012年に全ての幼稚園・保育園に対して、運営のあり方について親が発言できる運営委員会の設置が義務化されています。

また、親の参画を促進する取り組みも海外ではさまざまに行われています。普段からいつでも保育園に親が入れるようにして、つまり、親がいつ来るかわからない状態にしておいて保育の質を確保しています。さらに親の居る場所や、親の交流機会などを保育園の中に用意している例もあります。保育園は安全確保のために、親が園内に滞在することを嫌う施設も多いですが、海外では親が園内でお茶を飲んで他のお母さんと話せる場所があったり、親どうし夕方に集まったり、休日に親子ピクニックを企画したりしています。

さらに、海外では政府から親向けにガイドブックが出されている例もあります。たとえば、ニュージーランド政府発行のガイドブックには、「予告せずに保育園に行って子どもの様子を時々見て、何か気になることがあればどんどん保育園に意見を言いましょう」という内容が書かれていたりもします。日本でこのようなことをすると、モンスターペアレントなどと言われてしまいそうです。
20年くらい前、ドイツで見た保育園には、コーヒーを飲むスペースがありました。親どうしも保育園に集まって、くつろぎながら子どもたちの様子をみんなで見たり、コーヒーを飲みながら話しをしたり、このように園内に親の居場所があることが非常に重要だと私は思っています。

⑦ 子どもの意向の尊重
先ほどお話ししました、子どもの権利条約を土台にして保育方針を見直す動きがあります。オーストラリアでは、幼児教育・保育指針を決めるにあたって、子どもの権利条約との整合性をとることから始めていたり、ノルウェーでは幼稚園教育法の中に、幼稚園の運営にあたっては園児の意見をできるだけ取り入れましょうという項目が入っています。
象徴的なのが、オーストラリアの放課後児童クラブの指針のタイトル、「My Time, Our Place」です。放課後児童クラブは「子どもたちの時間、子どもたちの場所」という考えのもと、運営されているのです。
イギリスの評価機関、Ofstedから質が高いと認定されたクラブの取り組みには、子どもが自分たちで運営の在り方について話し合ったり、ルールを決めるものが多くありました。

⑧ 提供体制の効率化
日本は保育制度に文部科学省、厚生労働省、内閣府の3つの省庁が関わっていますが、ほとんどの国では1つの省庁が担当しています。保育提供に関して体制の簡素化、効率化が進んでいるわけです。
また海外ではICTの活用も進んでいます。ニュージーランドではスマートフォンを利用して学習の記録を両親や祖父母とも共有しています。家庭的保育も、ネットワーク化によって各保育者の事務負担を軽減する取り組みが各国で進んでいますが、日本ではなかなか進んでいないようです。

⑨ 貧困や虐待の予防
日本は、貧困や虐待について対症療法的な措置が多いですが、海外ではその前段階から対応が進んでいます。家族が貧困にならないように、学校や保育園で親の就労支援を行ったり、親どうしがリフレッシュしたりストレス解消できるように学校や保育園の施設をレクリエーションのために使えるようにしています。イギリスでは、お迎えに来たお父さんたちがお酒を飲める保育園があるそうです。単に子どもを預かるだけでなく、親や家族のためにさまざまに機能拡充しています。

⑩ 子どもにやさしいまち(Child Friendly Cities)
保育園などの施設単位でなくて、街全体を子どもたちにとって良い場所にしていくチャイルド・フレンドリー・シティーズ、子どもにやさしい街という取り組みが国際的に進んでいます。世界で1,300の都市が認定を受けています。
スコットランドでは、政府が遊びに関する計画、プレイ・ストラテジーを立てています。家はもちろん、保育園や学校、コミュニティや地域でも、どうやったら遊びを増やせるかということがここに書かれています。
イギリス、ロンドンでは、子どもの遊びを増やすために何時から何時までここは遊び場道路にしますといって、住民が札を立てて、子どもが遊べるようにしています。これなどは、日本でも取り入れることができそうです。
フィンランドでは、公園おばさんが常駐する公園があります。公園の建物におばさん、おじさんの職員がいて、おやつを出してくれたりして、学童保育機能も果たしながら、子どもや地域の人たちも集まれるような、ゆるやかな雰囲気を創り出しています。こういう場所づくりも素敵だと思います。

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