講演録 3
未来のたまご育てプロジェクト
~笑っているシニアが社会を救う~
NPO 法人孫育てニッポン 理事
NPO 法人いちかわ子育てネットワーク 理事 村上 誠 氏
おじいさんおばあさんによる子育て・孫育て
ここで祖父母の役割についてお話ししますが、その前に、日本には「5大昔話」があるのをご存じでしょうか。「かぐや姫」や「鶴の恩返し」といったいろいろな昔話がある中で、代表する5つのお話。それは、「桃太郎」「花咲か爺さん」「さるかに合戦」「カチカチ山」「舌切り雀」だそうです。日本のいわゆる昔話は「むかしむかしあるところにおじいさんとおばあさんがいました」という、定番の話し方で始まります。そして登場人物や主人公は、おじいさんおばあさんが多い。昔話は千年以上伝えられていますが、昔は絵本などありませんでしたから口伝、言い伝えで後世に残されてきました。誰かが良いと思う物語を子どもたちに伝えていったわけです。そして、登場人物におじいちゃんおばあちゃんが多いということは、おじいちゃんおばあちゃん自身が子どもや孫たちに伝えてきたんじゃないかと考えられます。おじいちゃんが活躍する話をして、孫に自慢するわけです。「舌切り雀」では、おばあさんは悪者です。だから、おじいさんがおばあさんを悪者にしながら、おじいさんはいい人だよということを小さい子に刷り込もうとしていた話ではないか、という考察もあります。
そしてお話の内容はどれも勧善懲悪。良いことをしたら報いがある、嘘をつくと罰が当たるなど、道徳心を育てるためのお話が多いです。昔の日本では、そうやって子どもたち、孫たちの心の成長におじいちゃんおばあちゃんが関わっていました。それは日本の文化だと、私は思っています。
今、承認欲求が強く自尊心が低い子どもが増えているといわれています。マズローの欲求5段階説という欲求の段階を示したチャート(資料6)では、日本の子どもは物質的な欲求は満たされています。豊かになりましたし、モノも増えました。でも、心が満たされていない子どもが非常に多い。そのために自尊心が低い子ども達が増えていると言われています。日本は孤独感を感じる子どもが非常に多い。子どもの成育には自尊心や自己肯定感だけではなくて、最近は被受容感も大事とされています。それは自己有用感ともいって、ありのままの自分を受け止めてもらえるということ。そうして社会に認められる、社会に受け入れられていることを実感することです。しかし残念ながら、そういう場合はいつも、親が褒めたらいいとか叱っちゃだめだなど、親との関係性にばかり目が向いてしまいがちです。
(資料6)
でも、子どもは将来的に社会に出てどう評価されるか、どう活躍するかが大事なわけです。親だけではない人たちに認められ、受け入れられ、愛されることが大事です。それのためには多様な拠りどころ、サード・プレイスが必要です。親だけじゃない、多様な評価軸が必要です。それができるのが、祖父母なのです。親は自分の子どもを躾けないといけない。教育しなくてはいけない。だから子どもを評価するには葛藤が生じがちです。でも祖父母だったら無条件に愛したり、子どもに関わることができる。そういう祖父母の力が子どもにとても大事だと思っています。日本に限った話ではなくて、日経サイエンスにこういう記事がありました。祖父母世代が子どもや孫たちのめんどうをみることで、親世代が狩りに行ったり農耕したり、働けるようになった。そして生きていくための知識や経験を、長生きした祖父母から次の世代に伝えることができるようになった。これを、今の日本でも何かシステム化したいです。アフリカのことわざで、「It takes a village to raise a child.:子どもの成長には村が必要だ」があります。今、村というのは、コミュニティのことです。このことはヒラリー・クリントンさんが本で、社会を育むコミュニティを作ることが大事だと主張されています。
昔日本には「仮親」という仕組みがありました。お産婆さんをはじめ、抱き親とか、乳母さんとか、親代わりをしてくれる地域の人がたくさんいたのです。そういった関係性を今の時代に新しくできないかと思っています。
今、子育てには、家庭での自助、教育での公助、地域での共助、この3つが大事だと言われています。その中でも地域の教育力が低下しているそうですが、子どもの安全確保や多世代交流、地域の文化や歴史を学んだり、そういったことを地域で時間があるおじいちゃんおばあちゃんができたらいいと思っています。
もう一つは遊びです。人間の社会性は遊びから育まれると言われているのにもかかわらず、今どきの子どもは時間・空間・仲間が減って遊ぶのもままなりません(資料7)。だから、山登りとか木登りとか、自然の体験をしたことのない子どもが非常に増えています。こういった経験も、おじいちゃんおばあちゃんが手助けしてあげられるのではないでしょうか。遊べる環境が縮小しているので、いろいろな運動能力が低下したり、チームで遊ぶ経験値も減って社会性が低下したりしています。昔は木の棒が1つあったら遊びを考えたり、ボール1個で遊んだり、遊ぼうとしたら下の子が付いてきたので工夫して一緒に遊んだりしていました。そういった経験も増やせないかと思っています。そこには、昔そういう遊びをしたイクジイ・イクバアの経験値がきっと役立つはずです。
(資料7)
今、4つの「いくじ」(資料8)が必要になっていると思います。まずは、イクメンなど子どもを育てる「育児」。それによって親自身が育つ「育自」があって、さらに地域に広がる「育地」、そうすると次世代の人がどんどん育っていく「育次」になります。こういう環境になってくれば、きっと地域のダイバーシティが豊かになってくるはずです。
(資料8)
では、おじいちゃんおばあちゃんたちが子育て・孫育てに参加するにはどうしたらいいか、ここにまとめました(資料9)。
まずは、世代間交流です。子育てを支援する、地域の保育事業に参加する、ファミリーサポートセンターに協力する、学童や児童館のボランティアスタッフとしての参加もいいと思います。仕事をしていた高齢者だったらキャリア教育や、食育、環境保全など、いろいろなことをテーマに学校でボランティアできるでしょう。また、高齢者と子どもの統合施設が今増えていて、そこでも世代間交流ができます。さらに文化、伝統芸能、歴史や昔遊を継承する活動もいいでしょう。
大きなテーマとしてまちの防災・防犯があります。地域の大人達は昼間、仕事などで不在であることが多く、地域にいるのは子どもたちと高齢者です。災害や犯罪で緊急事態があって、親である大人たちがすぐに対応できないとき、高齢者がきっと役に立てるはずです。そういうときのために、高齢者と子ども、お互いに顔見知りの関係を築いておくと何かあったときの安全なネットワークになります。災害などで学校が地域の拠点になったときも、ふだんから交流が図れていれば防災拠点の運営もよりスムーズになります。防災・防犯のネットワークづくりのためにも、地域の子どもたちと高齢者の世代間交流が大事になってきます。
(資料9)
また、地域の祖父母力でできることとして、このようなことをあげています。地域型支援として町内会や自治会活動など、またテーマ型支援としてご自分の趣味や経験を活かしたり、子育ての場や方法は、さまざまにあります。
子育て支援にはさまざまな窓口があります(資料10)。行政の窓口としてファミリーサポートセンター、ほかに民間団体として社会福祉協議会やNPOなど。こうしたところを訪ねていくと、多世代交流の情報がきっと得られることでしょう。
(資料10)
子どもの年齢から見た子育て支援サービスと、地域の祖父母ができることをまとめてみました。子どもの年齢に応じて、おじいちゃんおばあちゃんにはさまざまな活躍の場があります。ぜひ、ご自身でも見つけてみてください。
実際にどのようなことが行われているか、事例としてこちらにまとめています。これもぜひご参考ください。こうした活動によって元気な笑顔のおじいちゃんおばあちゃん、そして笑顔の子どもたちが増えてほしいと願っています。ご清聴ありがとうございました。