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PIONEER TALK Vol.4 SHIZUKO HIRYU

〜生き物から学ぶ〜
生き物が持つ不思議な能力を
社会に役立つ未来のテクノロジーに繋げる

PROFILE

飛龍志津子さん
同志社大学 生命医科学部 教授/博士(工学)

PROFILE

同志社女子中学・高等学校卒業。
同志社大学大学院工学研究科修了後、日本アイ・ビー・エム株式会社に入社。
2003年同志社大学大学院工学研究科 博士後期過程に入学後コウモリの生物ソナーに関する研究を始める。
博士(工学)。
2013年文部科学大臣表彰若手科学者賞、2018年日本学術振興会賞。
2014-2018年JSTさきがけ「社会と調和した情報基盤技術の構築」研究員。
専門は生物音響工学。コウモリの生態学から工学応用に関する研究を行っている。

第一線で活躍する理工系女子の先輩にお話を聞く対談シリーズ。今回のゲストは、コウモリの超音波センシングの研究者、飛龍志津子同志社大学教授です。皆さんは夏の夕暮れ、暗くなった空を器用に飛び交うコウモリを見かけたことがありませんか?飛龍先生はこのコウモリが持つ不思議な能力を解き明かし、社会に活かす研究をされています。一度は進学を諦め企業に就職、その後再び研究者としての道をめざされた経歴をもち、プライベートでは2児の母でもある飛龍先生は、人生の転換期をどんなふうに乗り越えてこられたのでしょうか。研究者として、母として、日ごろ感じていること、ご自身の体験から皆さんに伝えたいことなどをお聞きしました。

聞き手:荒木 由季子(株式会社 日立製作所 理事)

コウモリはなぜ暗闇で
ぶつからずに飛べるのでしょうか。
生き物から学んだことを社会に活かす、
ヒントとして伝えたい。

荒木:
先生は、コウモリの超音波をご研究されているそうですが、どのような研究なのでしょうか。
飛龍:
このコウモリは、アブラコウモリというコウモリなんですけれど、日本では一番多く、あちこちで見ることができるコウモリです。
見ていただいくと、口をこうパクパクしていますよね。これ、人間の耳には聞こえないんですけれども、超音波を口から出しているんです。
荒木:
口から出しているんですか。
飛龍:
はい、アブラコウモリは口から超音波を出します。
普段は暗闇で生活をしていますので、超音波を出して、戻ってきたエコーを聞いて、障害物を避けたり、目的地に向かって行ったり、そういう能力を持っているんです。
私はこのようなセンシング(感知)の能力を生き物から学ぶ研究をしています。
今でしたら自動運転など、色々なところにセンシングの技術が使われていますけれども、生き物がやっていることを、そこから学んだことを、技術開発のヒントとして伝えられたらなというスタンスで研究をしています。
荒木:
なるほど、興味深い研究ですね。
こちらにはどれくらいのコウモリがいるのですか?飼育などは大変ではないですか。
飛龍:
そうですね。やはり飼育は大変です。
今は2〜30匹居るのですが、学生さんがとても一生懸命頑張ってくれています。
荒木:
一年中お休みなしですよね。
飛龍:
そうなんです。お正月やお盆も関係なくみんな頑張ってくれています。
この子は今じっとしていますが、昼間は体温や、呼吸も全部下げて、代謝を下げているんですよ。
冬眠の短いものを毎日繰り返しているんです。
荒木:
本当ですね。もう動かなくなっていますね。
飛龍:
あと、目が小さくて耳が2つついているんですけれど、超音波を出して戻ってきたエコーをこの2つの耳で受け取ります。
どちらから来たエコーかなどということを感じ取って、音で世界を見ることができるんです。
すごく小さくて、5gとか6gぐらいしかないんですけれども、飛行中に出している超音波自体はジェット機の騒音ぐらいのレベルの、ものすごい大きな超音波を出すことができるんですよ。
荒木:
小さな身体ですごいですね。
飛龍:
実験では、このコウモリたちを飛行室の中で飛行させて、その時の超音波を計測するなどしています。
例えば、自動運転に超音波のセンサーなどがついていますけれども、そういうセンサー同士がたくさんあるようなところで情報が混信するような場面というのは、現実の課題として色々なところにありますよね。そういうところの解決のヒントに、コウモリはどうやってそれを解決しているんだろう?という手がかりが、この行動実験から得られたらということで行っています。
荒木:
コウモリは賢いんですね。
飛龍:
賢いですね。普通であれば、混信があればぶつかってしまうだろうと思いますよね。
洞窟の中で何十何百というコウモリがなぜぶつからないで飛べるのか、何か秘密があるんですけれども、まだその大部分は分かっていないんです。
少しずつ手探りで研究をしている状態です。