ページの本文へ

2025年度 第57回
倉田奨励金贈呈式・研究報告会開催

2025年度 第57回倉田奨励金贈呈式

2026年3月2日(月)、経団連会館において、2025年度(第57回)倉田奨励金贈呈式を開催しました。今年度は昨年を上回る352件の応募があり、厳しい採択率の中、厳正な審査により採択された44名の研究者に対して奨励金を贈呈しました。

贈呈式は、日立財団中畑理事長の開会挨拶で始まり、選考委員長の花木啓祐氏から今年度の選考経過報告、その後、中畑理事長から受領者一人ひとりに贈呈書を手渡しました。続いて各部門・分野の代表者にご登壇いただき、今後の抱負などをスピーチしていただきました。今年度受領者44名の一覧、研究概要は下記をご覧ください。


日立財団 中畑理事長


倉田奨励金 花木選考委員長


研究助成金の贈呈

理事長挨拶

2025年度第57回倉田奨励金贈呈式、研究報告会の開催にあたり、主催者を代表して、ご挨拶申し上げます。

2025年度の倉田奨励金には、352件のご応募をいただき、選考委員会による公正かつ厳正な審査を経て、44件の研究課題に対して贈呈することを決定いたしました。まず、ご応募くださいました研究者、ならびに、ご推薦くださいました各大学・研究機関の関係者、選考委員の皆様に深く感謝申し上げます。

倉田奨励金は、日立財団のもとになりました「国産技術振興会」の活動として、1967年(半世紀以上前)から行っているものです。日立財団は、1967年以降、日立製作所の歴代経営幹部の志によって設立された5つの財団を母体としています。5つの財団の設立の思いは「広く世の中のために貢献する」「企業活動を通じて社会に奉仕する」という1910年、116年前に日立製作所を創業した小平浪平のこころざしに基づくものです。小平浪平が示したこのこころざしは第 2代社長倉田主税(ちから)の経営理念となり、「事業を通じての社会貢献はもとより社会奉仕にも力を尽くす」ことに日立は財団も含めて、邁進してきました。

2015年4月に5つの財団を統合した後も、日立財団として、この創業者たちの熱い思いと理念を継承し、「学術・科学技術の振興」「人づくり」「多文化共生社会の構築」の3つを中核領域にすえて、日立グループのこれまで蓄積してきた経験ノウハウを生かしながら、社会のニーズに応じた活動を展開させて頂いています。

倉田奨励金の名は、日立製作所の第2代社長、倉田主税(ちから)に因んでいます。倉田は、第二次大戦後の1947年、昭和 22年から日立製作所の社長を務めましたが、当時の日立は、1910年(明治 43年)から創業者小平浪平のもとで連綿と築かれてきた技術や施設は戦争で破壊され、まさに一から再スタートする時でした。エレクトロニクス分野などの技術開発で先行していた欧米諸国との差は大きく、科学技術の多くを海外に頼らなければならない状況のなかで、倉田は世界に通用する自主技術を開発しなければならないと考え、「戦後日本に、科学技術を息づかせる」、「国産技術研究を振興させる」ことを決意し、そのためには「これからは科学技術を日本の宝として育てる。そのために若い研究者を育てたい。」と強く願うようになりました。

この思いの実現にむけて、倉田は自らの退職慰労金を基礎として、1967年に「国産技術振興会」を設立し、優れた研究者への倉田奨励金贈呈を始めました。以来、2024年度までに1,652名の研究者へ、総額約26億5千万円の奨励金を贈呈してまいりました。

グローバル化の進展に伴い人々の生活を取り巻く課題は多様化、複雑化しています。温暖化をはじめとする地球環境の変化、地政学的な対立や絶えることのない国際紛争、国際間の経済格差拡大や自国優先主義の台頭、エネルギー、食糧、人口など、多くの課題の解決が迫られています。このような社会課題の解決に、科学技術を用いることの重要性が再認識されています。

日立財団は、倉田の理念を守りながら、グローバルな社会課題解決力を担う次世代の研究者による自然科学・工学研究、および高度科学技術社会に通底する人文・社会科学研究に対して助成を行い、持続可能な未来社会の実現に、これからも貢献してまいりたいと思います。

最後に、この倉田奨励金を受領された皆様方の研究が、さらなる発展に繋がることをお祈りして、挨拶とさせて頂きます。

受領者代表挨拶

自然科学・工学研究部門

エネルギー・環境分野

京都大学大学院 小池 貴誠

このたびは倉田奨励金にご採択いただき、誠にありがとうございます。

私は現在、生分解性プラスチックの分解に関する研究に取り組んでいます。近年のプラスチック廃棄物による環境汚染が世界的な問題となっており、その解決策の一つとして生分解性プラスチックへの期待が高まっています。生分解性プラスチックは優れた分解性を有する反面、耐久性や安定性が低いといった課題を抱えており、使用用途に応じた分解速度の精密な制御が求められています。

例えば、環境流出される釣り糸などは、使用後、すぐに分解するように設計されなければなりません。一方で、長期的な安定性が求められる漁業器具のブイや定置網などは一定の耐久性を維持したまま、徐々に分解するよう設計されなければなりません。しかしながら、生分解性プラスチックの分解は多数の素過程や構造的因子が複雑に絡み合う反応過程であるがゆえに、工学的に十分な理解に至っていないのが現状です。

そこで、われわれは生分解性プラスチックの成形条件や暴露環境の違いが、分解挙動にどういった影響を与えるかを体系的に解析し、それらの多因子を総括した、汎用性の高い分解モデルを構築することを目指しています。材料の固体構造と分解速度の関係を定量的に明らかにし、分解メカニズムを追求し、将来的には使用用途に応じた最適なポリマー種、および、成形条件の提案を可能にしたいと考えています。

今回、倉田奨励金に採択していただけたことを糧にして、持続可能な社会の実現に値する、学術的、工学的成果を創出できるよう、今後、より一層精進していく所存ですので、温かいご支援、ご指導のほど、よろしくお願いします。

都市・交通分野

産業技術総合研究所 篠原 崇之

本日はこのような貴重な機会をいただきまして、誠にありがとうございます。

私が採択されました都市・交通の分野では、課題がまさに渋滞している状態にあります。現場のインフラ管理で言いますと、インフラがどんどん古くなり、さらにそれを更新するお金がなく、そして人もいないということで、ヒト・モノ・カネが何もないという状態になっています。

その一方で、事故は絶対に起こしてはならないという要求や、インフラですので止めてはならないという要求、さらに、説明責任を果たさなければならないということで、さまざまな要求が増えています。そして、現場のプレッシャーがどんどん高まっていることが非常に難しいところです。

こういったところで利いてくるものとして、AIやIT技術を使って現場の見える化を行い、意思決定を支援するということが大事になってきます。そこで、私はリモートセンシングという分野で研究を行っているのですが、非接触での都市のモニタリング、衛星画像や地上でセンシングをするということをやっています。このようなデータをそのまま適用すればいいのではないかと思うのですが、実際の現場では、どのデータを異常値とするかということが難しいです。ラボレベルであれば、どれが異常かということはいくらでもシミュレーションでできるのですが、ノイズの中に埋もれてしまい、どれがノイズなのか、異常なのか分からないという状態です。

そういった時に使うものとして、今回は動的システムモデルというものに着目しています。これは単にAIを適用するのではなくて、もう少し物理的な現象に着目して、AIと組み合わせることをやっていこうというものです。皆さんはChatGPTのような非常に大規模なAIモデルを使うことを考えると思いますが、これを使うことで、非常にコンパクトなモデルで異常の予測などができるということになります。このモデルを使えば、現場の意思決定に使えるのではないかということで、この研究をすすめて行きたいと思います。

最後になりますが、この研究を使って、土木建築分野の現場の皆さまの判断や意思決定を支援できるようなシステムを将来的に作っていきたいと思います。これからもこの奨励金を糧にして研究を進めていきたいと思いますので、よろしくお願いします。

健康・医療分野

九州大学 妹尾 暁暢

このたびは倉田奨励金にご採択いただき、誠にありがとうございます。本日、健康・医療分野の受領者を代表してごあいさつを申し上げる機会を頂戴して、大変光栄に思います。

現在、私は九州大学薬学部のタンパク質創薬学分野にて助教を務めています。この「タンパク質創薬」という言葉には2つの意味が込められています。1つは抗体医薬品のような、タンパク質ベースの薬を作るという意味です。もう一つは、薬ではなくて、今この瞬間も私たちの体の中で機能している、働いている、タンパク質そのものの構造や機能を理解するという意味です。

病気はタンパク質の働きに異常が起こることで生じることが多くあります。私はそのような仕組みを分子レベルで理解し、その知識を基に抗体などの医薬品を合理的に設計することを目標として研究に取り組んでいます。こうした研究では2017年にノーベル化学賞を受賞した、クライオ電子顕微鏡をはじめとして、タンパク質の挙動を分子レベルで捉えるさまざまな計測技術が欠かせません。私たちはそれらの技術を総動員して、ナノメートルスケールで現象を見る、測ることで、生命現象の根本である分子の振る舞いを理解しようとしています。

抗体医薬品が世界中での医薬品売り上げの上位を占めるようになった背景には、今、述べましたような、分子の振る舞いを理解して、医薬品を合理的に設計する技術の発達が完全にリンクしています。分子の構造を見ることが、そのまま薬になる分子をデザインする力につながる、そのような時代になっています。

そのような中、今回、採択いただいた研究課題では、潰瘍性大腸炎や、クローン病を含む炎症性腸疾患に関わる特定のタンパク質を標的とした、診断用の抗体の開発に取り組みます。炎症性腸疾患は若年層にも突然発症し得る難病であり、生活の質を損なう深刻な疾患です。私たちはこれまで、この標的タンパク質の分子構造を長く追い続け、最近、ようやくその立体構造を明らかにすることができました。

まさに百聞は一見にしかずで、分子構造が分かった瞬間、副作用のない診断用抗体を作るためには標的タンパク質のどの部分に抗体を結合させればよいかが一目瞭然になりました。この研究が発展すれば、現在のような負担の大きい生検検査に代わる、より患者さんに優しい診断方法を実現できる可能性があります。将来的には患者さんのQOLを大きく改善する、新たな検査技術へとつながることを期待しています。

ここまで分子レベルの研究の重要性に触れてきましたが、もちろん医薬品が世に出るまでには、分子レベル、細胞レベル、個体レベル、いずれの段階の研究も欠かすことはできません。分子の構造解析だけでは薬は生まれず、細胞や個体での評価がなければ医学的価値には到達しません。今回、私たちが長年積み重ねてきたミクロなレベルの研究が、よりマクロなレベルの医療応用へとつながる研究であると評価していただけたことに深く感謝を申し上げます。

私たちはこれからも分子を見る、測る技術を武器にしつつ、細胞もしくは個体レベルの多様な専門性を持つ研究者の皆さまと協力しながら、医療現場の課題解決に貢献していく所存です。今後ともご指導ご鞭撻(べんたつ)のほどを何とぞよろしくお願いします。

人文・社会科学研究部門

名古屋工業大学 西井 麻里奈

このたびは第57回倉田奨励金にご採択をいただき、心より感謝を申し上げます。人文・社会科学研究分野を代表しまして、ごあいさつをさせていただきます。

倉田奨励金の人文・社会科学分野は科学技術の進歩がもたらす社会の変容、その背景に潜む複合的な諸課題を人文社会科学の視点から読み解き、科学技術の発展の意味や価値、社会の在り方を探求する研究とされています。今回、ご採択いただいた研究は主に歴史研究の立場から原爆被害者を対象とする相談事業と、相談に応じるソーシャルワークの実践の歴史を明らかにするとともに、相談資料の永久的な保存、活用を目指し、資料整備を行うものです。

科学技術と相談、ソーシャルワーク、これらの一見全く別のものに見える問題領域は、科学技術の粋を集めた戦争、ここでは原子爆弾ですが、その長期的影響を検討する際に重要な学術的接点を持ちます。日本の原爆被害者援護体制は誰が被爆者であるかということを法で定め、特殊な爆弾による特殊な被害を援護の対象とし、疾病名や要医療性といった身体に関する医療的な枠組みを軸に作動してきました。しかし、原爆以後、何かがおかしくなってしまったと言うほかないこと、そこから時に導き出されてしまう社会生活上の苦難ものしかかる中、精神医学者、ローバート・リフトンをはじめ、被爆者のいわゆる心の傷に注視する研究も展開されてきました。

原爆被害者とその家族に対するソーシャルワークは、身体、精神、生活に対する戦争暴力の多岐にわたる産物と最前線で長期間にわたって向き合うものとなりました。それは現在進行中です。また、ソーシャルワーカーは目の前のその人を十分に救済できないという切実さを持って、現行の法体制や判断の限界に直面する存在でもありました。ゆえに、その変更を被害者と共に求めて行動する実践者でもありました。

しかしながら、その労働というものは高度な科学技術の成果、あるいは悲劇として、人々の記憶に残る軍事技術と、その破壊力とは対照的に不可視化されていて、財政や制度のバックアップを十分に受けることなく、多くは女性による見えない労働を伴っています。こうしたケアワークは科学技術の外部にあるオプショナルな問題ではなく、何らかの被害が発生する場に必要とされる存在である以上、科学技術と政治、社会との関係の中で検討される必要があると考えております。80年を経過し、核の対日使用の歴史が所与の過去と受け止められ始めている中でこそ、学術研究を通じて、新たな資料、言葉、資格、理論、枠組みをもって、何度でも問題を考え直していくということが求められていると思います。

本研究では、東友会、東京都原爆被害者団体協議会が保有する「相談記録簿」というものを基に、多様な相談のケース、そして、相談に向き合い、被爆者のさまざまな支援、ニーズに対応してきた長い歴史の中で、支援実践の知というものがどのように蓄積されてきたかということを明らかにするとともに、戦争暴力とケアを巡る問題系に対し、理論面および実践面での応答を試みます。

このたびは、歴史の長い研究奨励金をお受けしましたこと、また、このようなごあいさつの機会をいただきましたことに、改めて心より感謝申し上げます。本奨励金の運営に関わる全ての皆さまに敬意を表しますとともに、ご期待に添えますよう精進してまいりたいと思います。

倉田奨励金 研究報告会

贈呈式に続いて、同会場にて研究期間を終えた受領者による研究報告会を開催し、代表者4名に研究成果を発表いただきました。

倉田奨励金 研究報告会 発表1〜2
岡林 賢仁 氏 河瀬 理貴 氏
発表1:エネルギー・環境分野

奨励金No.1571(研究報告書)(PDF形式、2210kバイト)
大阪公立大学 岡林 賢仁 氏
アルコールのC-O結合の切断を基軸とする触媒的分子変換手法の開発

発表2:都市・交通分野

奨励金No.1536(研究報告書)(PDF形式、780kバイト)
東京科学大学 河瀬 理貴 氏
不完全な情報環境における災害物流の主体間連携のための分散制御手法

倉田奨励金 研究報告会 発表3〜4
達 博 氏 山田 歩 氏
発表3:健康・医療分野

奨励金No.1548(研究報告書)(PDF形式、1240kバイト)
物質・材料研究機構 達 博 氏
電子線集光可能な回転結晶の膜を用いた内視鏡用X線光源の集積化

発表4:人文・社会科学研究部門

奨励金No.1613(研究報告書)(PDF形式、248kバイト)
滋賀県立大学 山田 歩 氏
検索エンジン・生成AIのサービス利用がアンコンシャス・バイアスの拡散に与える影響に関する心理学研究

贈呈式・研究報告会閉会後は会場を移し懇親会を開催し、列席の皆様には和やかな雰囲気の中、情報交換などで交流を深めていただきました。日立財団は、この交流が皆様の研究の更なる発展につながることを願っています。


懇親会 倉田奨励金選考委員 松本健郎氏 乾杯のご発声


懇親会 会場の様子

お問い合わせ

公益財団法人 日立財団「倉田奨励金贈呈式・研究報告会」事務局
〒100-8220 東京都千代田区丸の内1-6-1

お問い合わせフォームへ