Hitachi

公益財団法人 日立財団理工系女子応援プロジェクト わたしのあした

パイオニアトーク Vol.3

生活はサイエンスがいっぱい

モデリングとシミュレーション、この2つを並行処理しています。

荒木: 先生の研究って、生活の中の今まであったものの中から、課題みたいなものを見つけ出して、やってみてというところで、ある意味、女性ならではですよね。

五十嵐: あっ、そうかもしれないですね。

荒木: 男性はなかなかそういう発想ってないですよね。大変素晴らしい特徴的な視点ですよね。女性にもけっこう発見ができそうですよね。

五十嵐: 女性だからこそ気づけるというものがあると思っていて。例えば、遠隔コミュニケーション支援の研究はたくさんありますけど、友人の女性研究者はそれが遠距離恋愛の支援に役立てられないかと言っています。そういう発想って、女性だから出てきた発想かなって思うんです。顔の画像処理の研究がありますが、お化粧で顔をきれいに見せる技術ができないかとか、スカイプのときはお化粧した顔でやりたいとか、そういうピンポイントの発想ができるんですね。ダイバーシティなどと言われていますが、まだ女性は研究の世界ではマイノリティです。だからこその発想というのがあるかもしれないなと。研究する人が多いほど、その分野の研究は進みますが、その中で、自分ならではのポイントや違った視点に踏み込むことで、手芸とITのような、そういう特徴的な研究ができたら面白いと思います。

荒木: 普通、CGというと先生がおっしゃるようにゲームなどの分野が多いですよね。ぬいぐるみのような手作り、ものづくりの方向に行ってみようとお考えになったのは、どういうきっかけだったのでしょうか。

五十嵐: 大学でCGの研究室に配属されたとき、みんなで論文を読む輪講をやりました。そのとき、SIGGRAPHという世界最大のコンピュータグラフィックスの会議で発表された論文を読む機会があったんです。今、筑波大学にいらっしゃる三谷先生と東京大学の鈴木先生の論文で、三次元モデルを入力してペーパークラフトを作るための型紙を出力するというものでした。ペーパークラフトは、三次元モデルといって三角形の平面図の集まりでできているので、ものすごい量があるんです。それを展開したとき、なめらかな面の集合になるようにコンピュータがストリップと呼ばれる領域を自動的に分割してくれるという研究でした。それまでのCGの研究って、コンピュータ画面の中できれいな絵が出ましたとか、きれいなシミュレーションができました、計算が早くやれました、といった研究が多かったのに対して、この研究はできましたよという写真が載っているのです。それを論文で見たとき、すごくインパクトがありました。ペーパークラフトのテーマが世界最大のCGの会議で認められている。だったら私は昔から好きな手芸で、ぬいぐるみで出したい!そう思ったら論文のペーパークラフトの型紙が、私にはぬいぐるみの型紙に見えてきたんです。それをきっかけに研究を初めました。私の母は家政科を出ていて、私と妹の洋服やワンピースとかをいつも縫ってくれる人で、私は小学校の夏休みの工作でテディベアを作ったりしていました。私はウサギが好きだったので、テディベアの型紙の耳のところだけを伸ばしてウサギにして作ってみたことがありました。そうすると、綿を入れたらすっごい細い耳のウサギができたんです。今こうしてシミュレーションしてみると、綿を入れて膨らんだときにその大きさになるように、大きい型紙にしなければいけなかったんですよね。あのときの耳の細いウサギとこの研究、私の趣味とCGの研究が、今こうして繋がっています。

荒木: それは面白いですよね。こういうぬいぐるみのような、女性がずっと長くやってきた手作りの世界にCGのような新しい技術を入れるというのは。しかも裾野を広げていくと、非常に面白い。

五十嵐: ぬいぐるみというと手作業というイメージがありますけど、数学的にはガウス曲率と呼ばれる曲率が0の面の集合というと歪みなく展開できます。三次元と二次元って、例えば、地球儀と世界地図みたいに表現すると同じにならない、歪みが必ずあるんですね。なので、メルカトル図法とかモルワイデ図法とか、いろんな図法があって、極北のグリーンランドと南極のところが広がってしまうけど、ある2点間の距離は等くなるように、どう歪みを最小化するかというので展開手法が決まってきます。ぬいぐるみのパーツは、その展開したときの歪みがなるべく少なくなるように領域をあらかじめ分割してあげる。しかも、顔のように意匠デザインで大事なところには縫い目がこないようにする、もしくはその縫い目もデザインになっているんです。そういったところが、実は数学と繋がっていたり、感性と繋がっていたり。手作業だけだと思っていたところが実はいろんな数値だとか、コンピュータに解かせることと相性が良い。そんなところにすごく魅力を感じています。

荒木: 確かに、言われてみると数学に近い話ですね。こういうぬいぐるみとかというのは、よくよく考えてみると、数学とか曲面などに繋がっているんだなと。

五十嵐: 私が今研究していることは、自動車やアパレルCAD、建築など、いろんなことに通じる技術だと思っています。例えば家具デザインで、モデリングとシミュレーションを一緒にやることで倒れない家具など、新たなデザインもできています。また自動車でも、シミュレーションするソフトとモデルを作るソフトが分かれていますが、それを一緒にすることでシミュレーションのことは知らない人でもデザインできるなど、いろんな世界が広がると思っています。