パイオニアトーク Vol.3

生活はサイエンスがいっぱい

モデリングとシミュレーション、この2つを並行処理しています。

荒木: 先生は、「AI世代のデジタル教育」という本を書かれていて、私も読ませていただきました。

五十嵐: ありがとうございます。

荒木: 私の子どもはすでに仕事をしているのでもう間に合わないですけど、今の子育てで、みんなが知りたいことがいっぱい書いてあると思いました。この本は、どういうきっかけで書かれたのですか。

五十嵐: ママ友といろいろ話をしていると、料理を作っている間など、子どもをどうしても放っておかなきゃいけない時間があって、どうしているかというと、母親はすごく罪悪感を持ちながらYou Tubeを見させていたりしているのです。でもその時間、罪悪感なんて持つのは嫌じゃないですか。そうではなく、むしろ例えば、想像力を養うために絵本アプリをさせようとか、目的を持ってデジタルを使う時間にする、そんなふうに方向転換するだけで、自分の罪悪感もやわらぐし、子どもにとっても学びに繋がるといいと思って、それでこの本を書かせていただきました。今さかんに言われている非認知能力といった21世紀型スキルは、小・中・高校の目標であって、幼稚園児や保育園児の目標ではないんですよね。なので、そこに繋がるような力を小さいうちから鍛えておける方法って何だろうと。昔は読み書きそろばんと言われていましたけど、今はそれよりも非認知能力だとか言われているので、そういう目線から書いています。

荒木: なるほど。

五十嵐: 子どもの能力ってすごいなと思ったことがあって。「スクラッチジュニア」という、MIT(マサチューセッツ工科大学)が開発した、5~7歳ぐらいを対象にタブレットで使えるプログラミング言語があるのですが、それでうちの息子がアプリを作りました。タブレットの画面上に同じ柄の絵が3つあって、押すと5点が出るもの、3点が出るもの、1点とそれぞれプログラミングされています。「お母さんやってみて」と言われて私が見て絵をピッと押す。どの場所にある絵が何点かって私は知っているから、簡単に5点出せるんです。「すごいじゃん!これ5点が出たね。でも、ここの絵を押すと毎回5点だね」と私が子どもに言ったんです、ちょっと意地悪く(笑)。実はスクラッチジュニアってランダム関数が入っていないんです。私だったら、このアプリをスクラッチジュニアでは作らないな、違うもので作るだろうなと思っていました。そうしたら息子が即答で、「違う違う。それ毎回5点出ないよ」と言って、タブレットの絵を手で混ぜ合わせて、もう一回実行ボタンを押して「お母さん、やってみて」と。そうしたら次は1点なんです。息子は「ほらね」って自慢そうに。トランプでシャッフルしますよね、確かにあれと同じことでそうすれば同じ条件ではなくなります。手で混ぜた息子を見て、ああ、これがデジタルネイティブだと。ランダム関数がないとこのプログラムは成り立たないと思っていた私の頭は堅かったと思いました。この話を理系とまったく関係のない文系の女性に話をしたら、「私もそう思った、混ぜると思った」とおっしゃっていて、理系だけがプログラミングをする時代は終わったんだなと思いました。これからは理系も文系もないし、大人も子どももない。そういった中でいろんなアイデアを出していくことが世の中を便利にしたり、より住みやすくするという世界に繋がると思うようになりました。

荒木: 同じように、このトーク・シリーズの中で、これからは理系も文系もないという話がよく出てきます。大学の教育とかは理系と文系とで分かれていますし。アメリカですとダブルメジャーで理系文系どちらもやったり、いろんな勉強をされるという方も多いですよね。また、いろんな技術が進化している中で、おっしゃったように理系と文系の垣根というのも崩れてきているのかなと思いますし。 ※大学で複数の異なる専攻分野を同時に主専攻として学ぶこと

五十嵐: そう思いますね。