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公益財団法人 日立財団

多文化共生社会の構築シンポジウム「日本社会における多文化共生社会実現の壁」〜心のグローバル化〜多文化共生社会の構築シンポジウム「日本社会における多文化共生社会実現の壁」〜心のグローバル化〜

唐沢 穣 氏

唐沢なぜ偏見がなくならないのか。あるいは差別がなくならないのかということを考えるとき、政治学や法学が手がかりになるのでは、と思います。こういう分野にも似たようなテーマがあるのですが、そこで偏見や差別を取り上げるときの根本的な問題とは、個人の権利が侵されているという点です。ところが日本人の間で、「偏見の何が良くないと思う?」「差別はどうして良くないと思う?」と聞くと、「かわいそうだから」とか「相手の立場に立って考えると良くないと思う」、といった理由があがるのではないでしょうか。それももちろん大事なんですけど、じゃあ相手が傷つかなかったらいいのかとか、相手を丁寧に扱えばいいのかということになりかねませんよね。そうではなくむしろ、人権思想に基づいて社会が作られている、その権利の侵害について考えることが必要なのだと思います。
つまり人権の問題だということです。ある一人の人が基本的人権として本来持っているべき権利を侵すことになるんだという観点から、偏見や差別のことを考える必要がある。これは心理学の分野というよりむしろ法学とか政治学の分野からの議論になるのでしょう。そして、行政とかあるいは教育の面でも、そういった観点を私たちは育てる必要があるんじゃないかなと思うんです。つまり同情したからって問題の根本的な解決になるわけではない。私たちが持っている日本国憲法第14条にどう書いてあるかということです。社会的なカテゴリーをもとにした差別と偏見を私たちは排除すると、世界に対して宣言しているのですから、それを実行できる国であり、またその国民でありたいと思います。外国人の方も含めた共同体としても。心理学の中でも、そういうことを問題にしていかなければいけないと思っています。

山脇ありがとうございます。今日は心のグローバル化をどのように実現するか、ヒントが欲しいと思って来て下さった方が多いと思います。心の壁をどうやって崩していくのか。おそらく幾つかの層があって、社会としてできること、あるいは地域としてできること、個人、私たち一人一人ができることがあるのかと思います。その辺を少し分けながら、3人の皆さんからアドバイスをいただきたいと思うのですが、どなたからいきましょうか。では唐沢さんいいでしょうか。

唐沢最初に申しましたように、私たちは、どうやって他の人に対するステレオタイプや偏見を持つようになるのか、それを調べるのが心理学の課題ですが、同時に、人間は自分自身に対してもステレオタイプ的な物の見方をすることがあります。例えば、日本人の国民性や文化がこうであるとか、鎖国の時代を経たからといった言説がありますが、どれも、ある一面からの考え方です。もしかしたら19世紀以降に、押しつけられた自己観かもしれないですが、「日本人はこうだから」といった、紋切り的な考え方をするのも注意が必要です。ミスリーディングとさえ言えると思います。
一方で私たちは、外国の人から日本人がどう見られているのかに、すごく興味がありますよね。良い面だけじゃなくて、ここが変だよとか、外国人に言われるテレビ番組があったりするぐらいですから、よそからどう見られているかということにもともと関心があると思います。他者に対するステレオタイプだけではなく、自身に対するステレオタイプ的な物の見方も取り払って、自由になリたいと、私は思います。

山脇ありがとうございます。アンジェロさんからはぜひ、日本を内側から30年見てこられたということでアドバイスをいただきたいと思うのですが。

アンジェロまずは社会全般として何ができるかという話ですが、一つは引き算の論理足し算・掛け算の論理にパラダイムシフトをすることが、意識を転換するのに必要だと思います。
つまり日本にやってきた外国人が、郷に入りでは郷に従え、日本に合わせるべきなのか、あるいは彼らを迎えている日本社会がハードルを下げるべきなのか、それは、問いとして間違いで、両方とも頑張るべきであり、足し算・掛け算の論理で、良い関係をつくるのが重要だと思います。それと同時に、日本にやってきた外国人たちを、「悩みの種」として難しく捉えるのではなく、可能性を秘めている人材の宝庫として考えてほしいです。
国として、大々的にできることは、2014年にブラジルで開催したFIFAのサッカーワールドカップは「差別にノー」という、キャンペーンを打ち出した。これはサッカー国際連盟と国連とブラジルが共同で開催したでしたが、日本も、東京五輪という機会を生かし、いくらでも大々的な意識啓発キャンペーンにつなげることはできると思います。
最後に、私個人として、今すぐに何ができるのかという例を1つ示すと、それは皆さんがこれまで出会ってきた外国人、あるいはこれから出会うであろう外国人を、国籍としてのカテゴリーではなく、その人の名前を覚えて、名前でその人を認知する、名前でその人を呼ぶ。これだけでも一気に、彼らと向き合う姿勢、そしてその関係性が向上し、新たな可能性が生まれると思います。

山脇ありがとうございます。今、コンビニの店員さんでも名札をつけている方はいっぱいいらっしゃるので、コンビニでお金を払う時に「ありがとう、何とかさん」と一声かけていただけると随分空気が変わると思います。最後に全体を含めて毛受さんからご提言、アドバイスをいただければと思います。お願いします。

毛受今、外国人の方とは、地域のコンビニなどで顔を合わせたり、同じマンションのエレベーターに乗った時に、話かけコミュニケーションすることが大切だと思います。東京には、300近いボランティアの日本語教室がありますが、そこで外国人に日本語を教えている方が沢山います。日本語を教えるのもしっかりしたカリキュラムがあるのですが、外国人の方の中には、しっかり身に着ける日本語ではなく、話し相手が欲しい方もいらっしゃるんです。

昨年、海外のメディアから、30年後に日本はどうなりますかと聞かれたので、一生懸命考ました。毎年日本に住む外国人が20万人ぐらいずつ増えています。今後日本の人口減少はさらに加速していくので、年間25万人ずつ今後30年、増えていくとすると、25掛ける30ですから750万ですね、30年後は、今いる人と合わせると1000万を超えることになります。30年後の人口は、10%まで行きませんけど10%近い数になる。もう一つの課題は、30年後を考えたときにどこの国の人が来ているかとなると、ご承知のように東南アジアは、どんどん経済成長し、高齢化も進み始めています。そうなると東アジアや東南アジア以外の方が、今後日本に来ることを考えると、世界の中で今、人口が一番継続的に伸びているのはアフリカなので、十数年先からは、アフリカの人たちが日本に入ってくる時代がおそらく来ると思います。もう一つ、外国人の受け入れを進めていくと、最終的に日本人のアイデンティティーはどうなるかという問題に突き当たるんです。外国人が入ってくることで、単一民族的な国家が、どんどん変わり、違う国になっていくのではないかと、心配する方もいらっしゃると思います。それについて誰も答えを返せないし、それについての議論も実はないんのです。
私自身は、日本のアイデンティティーは海外とつながり、異文化を受入れることではないかと思います。海外から日本の飛行機に乗って帰ってきた時、飛行機の中で日本の伝統文化を紹介する英語版のビデオを見ました。そこで最初に紹介されていたのは、鑑真でした。中国から鑑真が入ってきたことで日本に仏教が飛躍的に広がり、仏教を広めただけじゃなくて、中国から日本食の元となる「味噌」と「醤油」をもたらしたと説明をしていました。次に、禅宗なんです。禅宗が大陸から入ってきたことで日本の仏教にイノベーションが起こった。そのような説明だったわけです。それを聞きながら思ったのは、日本の文化のルーツの多くは海外にある。日本は海外から異文化を持ち込むことで社会を発展させてきた国なんだということ。海外から積極的に異文化を取り入れ、社会にイノベーションを起こし、発展してきたのが日本だと考えれば、それがアイデンティティーだと考えられます。これから海外の方が沢山来て、受け入れのステージが発展しても、全く新しいことを日本はやるのではなく、今まで通りの考え方に沿ったものだと、私は思います。

山脇ありがとうございました。素敵な言葉をいただきました。心のグローバル化というのは、すぐに答えが出ることではないと思います。ただ今日、この場でこれだけたくさんの皆さんとこうして話ができたことが非常に貴く、大切なことだと思っています。来年は五輪もあり、たくさんの外国人の方が日本を訪れます。一過性にせず、さまざまなルーツを持つ人たちと幸せに共生していける社会をどう作っていくのかということを、どうか皆さん、何か1つでも2つでもヒントを持ち帰っていただいて、ご家庭で、ご職場で話し合っていただいて、何か、できる一歩、サヘルさんがおっしゃった、一声から始まる一歩を、それぞれ見つけていただければ大変ありがたいと思います。貴重なご意見をいただきました3人の方に改めて拍手をお願いいたします。

講演の様子